味のある標語看板は五右衛門風呂ワールドに通ず【佐世保:古賀住建】
いつも前を通るたびに気になっていたものがある。
標語の看板だ。
看板の下にはババンと会社名が書き記されており、地域の子どもたちや町内会有志がつくったものではないことがわかる。
標語は毎月書きかえられるうえ、決まって5・7・5の句だ。
時事ネタや政治へ一言などタイムリーなものからストレス社会を生き抜く人々を労るメッセージまでジャンルも幅広く、わたしは毎回といっていいほど感銘を受けてしまう。
ちょうど道のカーブ付近で見えてくるので、減速ついでにチェックするのが習慣となっている。
今回はちょっとじっくり眺めたかったので、少し駐車させていただくことにした。
2019年の今年を締めくくる12月は、
「宝くじ 当たると信じ 夢みるか!」だ。
正面に立ってみると、なんともいえぬ気迫を感じる。やはり手書き文字のパワーはすごい。
もう少しあたりを観察しようかと、目線を移したその時。
看板の隣ではためくのぼりに思わず目を奪われてしまった。
ん?
…んんん!?!?
大好き五右衛門!?
どういうことなのー!!
ルパン三世から洋麺屋まで、五右衛門と名のつくものはもれなく好きなわたしだが、これはあまりにインパクトが強すぎるではないか。
わたしは標語看板からサッと身をひるがえし、奥にある「有限会社 古賀住建」の扉をノックしたのである。
日本の西端で五右衛門風呂を売る会社
―こんにちは!おじゃまします。
笑顔で出迎えてくれたのは、社長の古賀秀之さん(54歳)だ。
―あの、五右衛門っていったいどういうことでしょう。
「えっ。ああ、五右衛門風呂ですか」
ーわわわ、売ってらっしゃるんですか!?ちょっと詳しくお聞きしたいです。
「はい、いいですよ」
―やったー!
わたしの頭の中は一気に五右衛門風呂に占拠されてしまった。
大丈夫。標語は逃げないから。
思わぬ収穫に舞い上がったわたしの耳に、どこからか鐘の音がグヮングヮンと聴こえてくる…。
今思えばあれは五右衛門風呂の音色だったのかもしれない(妄想だよ)。
実物のある場所を教えていただく。
すっかり見落としていたが、大好き五右衛門のぼりの真下にあった。
五右衛門風呂(長州風呂)だ。
ここでは五右衛門風呂と呼ばせていただくが、正式には、薪を焚く下の部分のみが鋳鉄製のものが五右衛門風呂、写真のようにすべて鋳鉄製のものが長州風呂というらしい。長州というぐらいだから山口県にゆえんがあるのか。
ずっと屋外で展示されていたためか、五右衛門風呂の表面には錆がついている。
これは何のコーティングも施されていない生地タイプというそうだ。
水洗いや油の塗布、乾燥などの防錆処理が必要になるが、使い続けるうちに人の身体から出る脂で皮膜がつくられ酸化防止になるのだとか。はひー。すごい。
はじめから防錆仕上げが施されたタイプ(ホーローなど)もあるそうだが、五右衛門風呂本来の入浴感を味わいたい愛好者はこちらをチョイスするとのこと。
五右衛門風呂本来の入浴感とは。
なんでも、肌触りの良い柔らかいお湯で身体の芯までポッカポカなのだそうだ。
―実際にお湯に入れたらいいなって、思うんですが。お試しできますか。いくらでも待ちますし実はこの服の下は偶然にも水着です。
「うーん、ぜひともと言いたいんだけど。ここにあるのは見本だけなので、ごめんなさい!」
ーでは、気分だけでも。
「どうぞどうぞ」
おそるおそる入ってみる。
大人1人がすっぽりおさまるサイズだ。体格のいいひとならぎっちり。子どもなら2人まではギュッと入るかもしれない。
昔の人は体格も小さかったそうなので、もっと余裕があったのかもしれない。
縁の部分とか底とかすっごく熱そうだが、意外と熱くないらしい。
そうか、この下には本来、底板があるんだもんな。足よ、木の感触を思い出すのだ。
頭の中で必死にあれこれと想像を膨らませてみる。
時間は日没近く。同行してくれた古賀社長にも寒い思いをさせて申し訳ないので、事務所に戻りお話を伺うことにする。
お茶をいただき、ようやく身体が温まった。ありがたい。
それにしても西の端の地佐世保で、どうやって五右衛門風呂を売っているのだろう。
まずはどんな会社なのかを知ることからだ。その成り立ちについてうかがった。
昭和3年創立。いまは奥さんと二人三脚で経営
佐世保市の老舗建材店「有限会社 古賀住建」 の流れは、昭和3年から。
「古賀商店」という屋号だったそうだが、醤油屋もやっていたらしい。
その後建材店を経て移設、いまに至る。現在は奥さんと二人三脚で経営している小さな会社である。
「子育ての秘訣は夫婦仲だよ」とアドバイスをくれた古賀社長。家族仲は好調のようだ。
現在は電気、ガスや水回りなどの販売施工を行っている同社が五右衛門風呂を商品のラインナップの1つに加えたのはおよそ17年前。
ちょっと珍しいアイテムが欲しかったというシンプルな理由だ。
五右衛門風呂に関しては販売のみで、施工は業者が行っている。
五右衛門風呂のカタログは昭和感があっていい
取り扱い中のカタログを見せていただいた。
ー意外と種類があるんですね。
「そうだね。直焚タイプからゴム栓付きの給湯タイプ、カンタン組立アウトドアタイプ、形も丸型とか小判型とか、サイズもいろいろだよ。あと、羽釜タイプもある」
―ちなみに、どんなお客さんが購入されるんですか?
「旅館や民宿、キャンプ場、一般のご家庭もいらっしゃるよ。屋外でドーンと開放感に浸れるし自分で組み立てもできたりもするから、アウトドアやDIY好きな方が多いかな」
また、他に購入理由を伺っていくなかで興味深かったのは
- 水中出産のため(鋳物の鉄分が溶出するため好影響?)
- 震災時など、インフラが完全に停止しているなかでも使えるから
だった。
特に水中出産には驚いた。鉄分や遠赤外線といった健康へのプラス要素が期待されるのはわかるが、絵図がほんとに儀式そのものである。血行とかそれはもうギュンギュンで、母子含め風呂釜全体がこう、脈打つ生命なのだきっと。
ーどのぐらい売れてるんでしょう?
「そうだね、北は北海道から南は沖縄まで、全盛期で2、30台ぐらいかな」
意外と多くて驚いた。ウン十万の世界なのに!決して安い買い物ではないというのに。
少ないとはいえ全国的にも販売店や通販があるなか、なぜわざわざ佐世保のここを選んだのか。
そのきっかけの1つは、2000年に立ち上げた自社サイトだった。
売れたきっかけは「サイトを見た」
「当時、五右衛門風呂をネットで売り出そうとしているところはほとんどなかった。だから取り扱い開始と同時になんとかいち早くと、ネットに詳しい後輩を参考に、自力でワードの機能を使ってコツコツと作ったのが最初です」
ーおお、これはかなりの懐かしさ!味わい深いですね。
アクセスカウンター付きである。キリ番、踏み逃げというワードが脳の奥からボコボコと這い出てきたが一旦引っ込んでてもらう。
ーコンテンツの数がすごいですね。普通なら会社紹介とサービス内容のみでスッキリ完成しそうなものですが。
「後づけのものも多いんだけどね。こんな片田舎の会社なものだから、たくさん発信することはしなくちゃとおもって。とにかく勉強しまくって充実させたよ。特に五右衛門風呂は、ウチで在庫を見られるわけじゃないからどうすれば魅力が伝わるのかあれこれ工夫したよ」
たゆまぬ猛勉強とともに、徐々に成長していく五右衛門風呂コーナー。
商品説明だけにとどまらず施行例、作り方、図面の開示や、
Q&Aコーナーまである。
おかげで「とてもわかりやすい」と、遠方のひとからも注目されるようになり、販売へと繋がることもあった。
うんわかる。わたしも見ているだけでワクワクするもの。
「口下手なんだけど、書くのは好きなんだよね。嬉しかったのは、このページのおかげでおたくの人柄がわかった。安心して買えると言われたことだね。努力した甲斐があったよ」とにっこりほほ笑む古賀さん。
数々のコンテンツは、お値段以上の真心がふんだんに散りばめられているのだ。
「そろそろ海外に向けたアピールもしていきたいんだけどね。広い土地があってアウトドア好きなひと多いだろうし」
ーそれは素敵ですね!英語版サイトつくっちゃいましょう。
「それがいかんせん、時間と体力がないんだなー!とほほ!」
自社サイト内に趣味のページをコッソリつくってしまった
佐世保出身だが五島にもゆかりのある古賀社長。
若かりし頃は遠洋航海で日本一周を2回達成するなど、海の男の顔も持つ彼はイカ釣りの熱狂的なファンだ。
あふれる気持ちを抑えられず、とうとう趣味のページを自社サイト内にコッソリとつくってしまうという暴挙に出た。
忙しさの合間を縫って、仲間たちとイカ釣りイベントを開催したりとたいへん充実した釣りライフを満喫しているそう。
そんな社長のすさまじいイカ愛がこもったサイトは、イカさながらに見れば見るほど味が出る。
歴代NO.1の入り心地を誇る五右衛門風呂は
ー社長はやはり、五右衛門風呂には結構たくさん入られたんですよね。歴代No.1とかありました?
「いやー、それが悲しいことになかなかチャンスがなくって。10年前、販売先のお客様からお誘いいただいて、家族総出で入りに行ったのがもう最高だったよ。薪で火を焚くところから始めて…あれは良い家族のコミュニケーションになるなぁって実感したよ」
―昔は一般家庭でも五右衛門風呂が多く見られたそうですね。
「そうだね。僕が小さい頃、おじさんの家で入ってたりしてたなぁ」
わたしの周囲でも、「農家の祖父母宅で入った記憶がある。とにかく熱くてしょうがなかった!」という声がチラホラ。現在でも、ガンガン高温に焚き上げて入るシニアもいる。
―今後は数も減っちゃうんでしょうか。
「売り上げもここ2、3年ですっかり減っちゃったしなぁ。価格競争、増税、不景気によるライフスタイルの変化…思い当たる節はたくさんあるけど、値下げはしないつもりだよ。僕のページなどで興味を持って信頼して注文して下さるお客様もいらっしゃるし、こちらも良いものを売ってるって自負があるから」
柔らかい口調で語りつつも、古賀社長の眼光は鋭い。
【本題】あの標語について
ーすみません、実はこちらが本題なのですが、会社の表にある標語について聞いてもいいですか。
「あっ、本題そこだったんですね(笑)あれは、会社の場所が分かりにくいとお客さんからの一言がきっかけで設置したんですよ。かれこれ15年くらい続けてるかな」
ーちなみにわたしのお気に入りは、「笑おうよ 脳勘違い するくらい」です。あれはどのようなお気持ちで書かれたのですか?
「あれは、ちょうど当時読んでいた人間学の本からヒントを得て書いたんだ」
大人になった今ならわかる。人間笑ってみると案外楽になるものだ。
内容はニュースや本、家族との会話からなど。ネタの引き出しは常備されているらしい。サイト内にも看板とは関係なく歌が大量に掲載されている。
ちなみに文字を書いているのは奥さん。なかなかな達筆である。
標語はご近所さんにも好評で、わざわざ新作を見に来る人も多いという。
五右衛門風呂も標語も、人をあたためてくれるのだ
人の住まいに関わることは、その人のドラマを知ることでもある。
その価値は、お金だけでは決して計ることはできない。
五右衛門風呂も標語も、それぞれの形で人をあたためているのだと共通点を見つけたとき、小さな住建屋さんが長年この地からもたらしているものの大きさが分かった気がした。
それにしても、五右衛門風呂に入れなかった未練がまだ残りまくっている。
そんな気持ちを一句したためる形で成仏させたい。
「子のプール お湯を注げば 五右衛門風呂」
大変おあとがよろしいようで、いやはやである。
【会社情報】
有限会社 古賀住建
佐世保市天神2丁目2677-1
0956-32-0776/0120-13-0776
【記事を書きました】
★全国の観光情報メディア「SPOT」にて佐世保を発信させていただきます! travel.spot-app.jp
★デイリーポータルZ「自由ポータルZ」で入選しました。めちゃくちゃ嬉しくて鼻血が出ました。
★デイリーポータルZ「自由ポータルZ」もう一息でした。めちゃくちゃ嬉しいです。佐世保にお立ち寄りの際はぜひ佐世保玉屋へ!
★佐世保市のローカルメディア「させぼ通信」で書かせていただきました。
★好きです、西海楽園フォーエバー。