クリスマスはビエネッタを食べるための大義名分
晩ご飯の離乳食にトマトリゾットをつくった。
しかし冷ますのが足りなかったようで、子が熱がって泣いてしまった。
全力で謝りつつ、もう一度慎重にリゾットを冷まし口に運ぼうとすると、
「怖いのでいりません!」と無言の訴えをされてしまった。
こんなに子の感情が言葉のように伝わってきたのは初めてで、わたしはよほどのことをしてしまったのだろうと反省してしまった。
しかし、子の必死の身振りから次々と「あんたの飯なんか、信用できるかぁー!」「ふん!いくらフーフーしたって無駄じゃ!」とセリフが浮かんでくるので、いけないと思いつつ笑いがこみ上げてきてしまった。
しっかりと冷めるのを待ってから口へ運ぶと、おそるおそる食べてくれた。
「本当に熱かったね、ごめんね」と言うと、やや口をへの字にしてウンウンと頷いていた。
仕事終わりの夫に、「街がクリスマスでなんかいい感じだからお出かけしようよ」と誘われた。
ちょうど子の晩ご飯を済ませたところだったし、すっかりご機嫌も直っていたので喜んで身支度をして家を出た。
クリスマスの終わりかけ、年越し正月ムードへのグラデーションに彩られた五番街をうろつく。
この、街がそわそわしている雰囲気がとても好きだ。
今日はもともと、夫に「ビエネッタ」を買ってきてくれと頼んでいた(クリスマスはこれを食べる良い大義名分なのだ)。
しかし、せっかくなら他にも好きなものをどうぞといった具合で服やら靴やらを見て回ることになった。
わたしにはお出掛けとお買い物、食いしん坊の子には離乳食祭りと、家庭で一番頑張っている自分を差し置いての夫のクリスマスサービスに喜びを感じつつ、
「きみは欲しいものはないのかい」と尋ねると、高スペックなカメラやガジェットの名前が飛び出してくる。
これはわたしの独断では決して買えないので、サプライズ不可なのが難点だ。
それをわかってなのか、毎回この質問をすると似たようなやりとりになる。
なので、話は逸れてしまうが、今年の夫のバースデーでは、サプライズ感を出したいがためだけにわたしの好みをガンガンに押し付ける形でお祝いをした。
直筆の手紙と、撮りためた夫の写真の中から厳選した写真集である。
受け取った夫はさほど驚きはしていなかったし、「自分の写真集をもらっても」といった具合だった。
たしかに手紙ならともかく、わたしも自分の写真をもらったところでどういう顔をしていいかわからない(笑えばいいのか?)。
そんなわけで、夫にサプライズを仕掛けるのには彼の予想を大幅に裏切った展開でなおかつセンスが良くてコスト的に無理がないものでなければいけないのだ。
まだまだ改善できる余地はある。
来年の自分に期待しよう。
五番街をぶらぶらし、GUで面白い色の靴とロングトレーナーとスカート、荒ぶる髪を鎮めるスプレーを買ってもらった。
ついつい立ち寄った桃太呂で長崎豚まんを衝動買いし、獲物を手に入れた野獣のごとくフードコートで一瞬で食べ尽くした。
そしてお目当てのビエネッタも、バニラとティラミスの2種類を買ってくれた。
家に帰り、子が眠っている隙を見て大本命のバニラ味をうまうまと食べた。
夫はビールとともに1口食べて、「ぅああまっ」とそれきりフォークを置いた。
わたしは夫用というていで多めに取り分けたぶんをさらりと平らげた。
やはりビエネッタの魔力といえばパリパリチョコだ。
バニラの存在はパリパリチョコが適度な隙間を保つためにあるといっても過言ではない。
パリパリチョコを口の中で味わっているときにはもう次の1口を欲している。なにか危険な成分が脳内で出ている気がする。
さすがに1人でティラミスまで完食できそうもないので、年末年始ゲストへのふるまい用にしようと夫に提案した。なんて平和な提案だろう。
しかし、箱から出してしまえば原型がわからないのをいいことに、少し手を出してしまいそうな予感がしている。
それだけに、年末年始の魔力は恐ろしいのだ。