ヤマモトチヒロのブログ

佐世保在住フリーライターです。育児日記に混じって、地元佐世保の歴史や文化、老舗や人物について取材撮影執筆した記事を掲載しています。

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スマホをいじらずにベンチで時間をつぶすのは難しい

唇の下にできものができた。

おそらくヘルペスのようだ。じんじんと痛い。

これって人に感染るんだろうか、と思いつつ、日課にしていた子へのムチュー(われながら書いていて痛々しい)を封印することにした。

代わりにほおずりである。

しかし、半年以上伸びに伸びまくったわたしの髪の毛が同時に子の肌を刺激することになり、子に手をブンブン振り回されながら拒絶されてしまった。

わたしの髪の毛は、父親のヒゲのチクチクと同種であるようだ。

 

子とのスキンシップが満足に得られなかったためとても切なかったので、唇のできものを指で挟んでやろうと思った。

みなさんのなかにも経験がおありの方はいないだろうか。

上唇ないし下唇を二段に折り曲げ、できものに刺激を与えるというやつである。

蚊に刺されて腫れた部分に親指の爪を押し込んで十字型に跡をつけるという感覚に近い。

カーブが強い他の指ではなく、あえて親指だというのがミソである。

これと同じで、あえて指で直接ではなく、唇の肉をクッションとして挟むことでソフトなイタギモチイを得ようという作戦だ。

つぶしてやろうとは決して考えていない。

むしろそんなのは怖いし痛いから嫌だ。

しかし、黙って痛がるだけなのも癪なので、暇つぶしの道具にでもしてやろう。これはできものに対する、わたしなりの復讐なのだ。

これまでの経験だが、やりはじめると、だんだん目線が遠くの方へ行きやや口が半開きになる。

集中なのかリラックスなのかはわからないが、トリップ状態に陥るのだ。

側から見るとすごく間抜けな絵面になるので、自宅から出ない今の環境ならやりたい放題である。

 

唇を曲げようとしたそのとき、ある問題に気がついた。

できものは唇が曲がる場所にはおらず、ちょうど下唇と肌の境目にいるのだ。

これでは綺麗に曲げられないじゃないか!

ちゃんとやろうとするとガチで痛いやつだ。

わたしが欲しいのはソフトな痛みだ。

なぜ初めから気付かなかったんだと思ったが、「唇のできものを指で挟んでいたぶる行為」は無意識なものであるため、仕方がないといえば仕方がないことだった。

そんなことを考えていると、子がわたしの顔めがけて突進してきたので素早くかわした。

一応書いとくがヘルペスが感染らないようにである。

その代わり横に回り込み、盛大なほおずりをお見舞いしてやった。

小さくてぷにぷにした両手で、強く顔を押しのけられた。

 

昼、取材まで待ち時間があったので、近くにあったベンチに座って過ごすことにした。

いつもならついスマホをいじってうつむいてしまうところだが、

なぜかこのときはそれに逆らいたい気分だった。

スマホをバッグにしまう。

すると、ものすごく自分が不安定なもののように感じる。

なにか手に持ちたい。

ジュースの缶でも良いしタバコでも良いし、なんなら中身のないコンビニの袋でも良い。

ただ待ち時間を過ごしているだけなのに、両手になにもないだけで不安になるとは思わなかった。

とりあえず行き場のない両手を膝の上に置く。

ものすごく、演劇の「待ち合わせでベンチに座っているひと1」みたいになった。

不自然なのだ。自分の中で、すっかり不自然なポーズになってしまったのだ。

きっと、携帯電話もない昔だったら、こういう光景はよく見られたのかもしれない。

けれど手元にスマホが当たり前になった時代、かえってこれが不自然に感じられるようになったのは、少し悲しい。

とりあえず、この状態を自然なものにしようと、考え事をしてみることにした。

するとつい、手があごの下に来て足を組んでしまう。

「考え事をしていますよ」というポージングだ。

決して膝に手をついて座ったままで考え事はできないのだ。

もし自分がそんな人の前を通ったら、「どうしたのかな」と思わずチラ見してしまうだろう。

なにから自分を守ろうとしているんだ、わたしは。

自然に、自然に…

と、ふと待ち合わせ時間が気になったので、サッとスマホを取り出してしまった。

その瞬間、負けた、と思った。

 

 

 

 

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燃えるような朝焼けでございました。