ヤマモトチヒロのブログ

佐世保在住フリーライターです。育児日記に混じって、地元佐世保の歴史や文化、老舗や人物について取材撮影執筆した記事を掲載しています。

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sec.1

Facebookで、「昨日は初節句の料理を作りみんなでお祝いしました」的な投稿を見て、しまった、昨日って3/3だったかと勘違いしてしまった。

つまり、今日は4日だと思ってしまったのだ。

「しまった〜昨日は桃の節句だったね。1日遅れたけど今からなんかしよう」と、わたわた準備した。

といっても、母が手作りしたネコの雛人形と叔父から貰った和菓子である。

ソファに暖色系の布を張り、子を座らせて雛人形とお菓子と一緒に記念撮影をした。

カメラを持つ夫の背後で子に声を掛け笑わせる。

こういうとき、動画などで自分の必死な声が入っていると非常に恥ずかしい。

スタジオアリスさながらな大人たちの頑張りの中、撮影は無事に終了した。

夫と「初節句だからsec.1だね」と笑った。

こくもつの袋のような服を着せていたので、あとで写真を母に送ると「もっとそれっぽい服着せてあげたらよかったのにぃ〜」とつっつかれた。

 

 

朝から夫の作ったブリ大根を食べた。

一晩越えて味がさらにしみており、さらに素材の旨味が出てなんとも丸くなっていた。

夫曰く、最初は塩味などが「ヴォラア!!」って尖っているけど、一晩経てば「オラァ!」ぐらいになるのだとか。

煮汁までずずずと飲み干して、出掛ける準備をする。

 

昨日観たお芝居をもう一度、ということで、今度は家族やお知り合いを数名誘ってホールへ行った。

内容は、「不妊治療に悩む夫婦と、望まぬ妊娠で悩む若いカップル」の話である。

子ども向けな内容ではないし、避けては通れぬ際どいワードもちらちら出てくるのだが、その公演では子どもウェルカム枠というのを1つ設けていた。

0歳児から観劇オッケーなので、そちらにぜひどうぞ、ということだった。

 

というわけで、お子様連れの観客メインで埋まった会場は、昨日とはまったく違う雰囲気だった。

パンフレットの本気度が凄まじくて驚いた。

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夫も「おお…」とまじまじながめていた。

お義母さんには、無理矢理付き合わせて悪いなぁと思っていたが、舞台美術にかなり興味津々だったので良かった。

このお芝居は、男女2人の役者が、不妊治療に悩む夫婦と望まぬ妊娠で揺れる若いカップルの2組をそれぞれ演じ分ける。

音楽やダンスなどの場面転換をきっかけに同じ時間軸の2組が描かれるのだ。

面白いところは、若いカップルのパートだと性別が逆転するところだ。

彼氏役を女性の役者が、彼女役を男性の役者が演じる。

それは、最後のシーンをするうえで必要不可欠なことだったのだろうが、ここでは割愛しておく。

 

2回目の観劇で面白かったのは、子ども目線での面白さをつい探してしまったことだ。

頭の片隅に、子どもたち楽しめているのかなぁといった考えがどうしてもよぎってしまい、「このシーンならきっと楽しめているかも、だってこんなに動きが面白いしセリフの言い回しも」と、子どもたちの反応を見ながら観劇していた。

1回目より広い視野で観れた。

昨日、1回目を観劇した友人と「結局あの夫婦は子どもを授かることはできたの?」「あのカップルはあれで幸せになれるの?」と、「このあとはお客様のご想像にお任せします」という感覚のモヤモヤを語り合った。

2回目を観て気付いたことだが、あれは結末を描くストーリーなのではなく、彼らが苦悩し前進していくさまを描いているのだ。

互いにぶつけあった感情や流した涙、姿の見えぬわが子への想いが、本来ならすぐに消えていくものがきらきらと輝きを放つ、その瞬間を切り取ったお芝居なのだ。

一見重たいテーマをコメディにすることでも、その素敵さをピンポイントであぶり出していることに成功していると思える。

夫婦は子どもを授からなかったかもしれない。

もしくは9回裏、最後の一球に奇跡が起きて子どもを授かったのかもしれない。

若いカップルは結局別れてしまい、彼女はシングルマザーになってしまうのかもしれない。

もしくはあれだけチャラチャラしていた彼氏が父性に目覚め、ある日突然スーツに袖を通すのかもしれない。

当然、観客の想像に委ねられる結末は無数に枝分かれすることだろう。

では、どこまでが結末なのか。

人生は一度、死をもって終わりを告げるように見えるが、それは結末ではない。

関わりあう人すべてのスピンオフがある以上、きっと無限に続いていくのではないか。

この芝居が「ここは結末ですよー」とわかりやすく定義していない限り、重要なところはそこではないのだろう。

「素敵じゃないか」というタイトルが示すのは、「人生酸いも甘いもあるけど、なんだかんだ素敵だよね」という投げやりなものではなく(そうであれば結末をわかりやすく描くべきである)、きっと、恋愛ではなく命と向き合う男女の中で生まれた感情やエネルギーのギラギラとした輝きのことなのだ。

どんな結末を迎えたにしろ、必死にあがいて絞り出された、その場限りのピュアなものは素敵なものである。素敵じゃないか。

佐世保で20年以上も活動を続けている「劇団HIT!STAGE」の劇作家・森馨由さんが書いたお芝居の紹介文を引用したい。

“命を育てることは、とても素晴らしい。動物的な我々に、神秘の力を与えてくれる。

だが、子の形として授からなかったとしても、

共に闘った夫婦の間には、何かが芽生えているのではないだろうか。

何かが育っているのではないだろうか…。”

お芝居を観たあと改めてこの紹介文を見ると、とても的確に表現されていてすごいなぁと思った。

 

感想を言い合いながら家路につく。

夫と子は速攻でソファで昼寝をしていた。

 

夜はブリ大根の残りと、夫の友人からいただいた干物と熱燗で団欒の時間を過ごした。

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お義母さんと夫が、中東諸国について熱く語っている。

話にはあまり加わらず(というか知識がない)、2人の話をほろ酔いで聞くのがとても好きだ。

子が何度か寝返りの練習をしていたので、みんなで応援した。

家族みんなが命と向きあっている。

素敵な瞬間だ。

 

「これ以上のことは望まないよ、とても幸せだ」的なことを話しながら眠りについたのを覚えている。

 

 

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PKやまもと | させぼ通信

 

 

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