チョコミント味をさがす舌
天気が良かったので洗濯物をパーンと干し、夕方ぐらいまでパソコンに向かった。
子は珍しくぐずらずにずっと昼寝をしていた。
こういうときは本当に有難い。
休憩がてらちょくちょく遊んだり絵本を読んだりした。
イルカの絵本は特に気に入ってくれたようで、こちらからなにもしなくてもペタペタとさわりにいく。
まだイルカの人形を押して音を出すには握力が足りないので、補助をつけて裏拳で押してやった。
夫が帰宅後、「目閉じて口開けて」と言って何かを放り込んできた。
これまで夫は、こういう種類のサプライズを数々行なっている。
起きがけにチョコミントクランチチョコを口に放り込んだり、お風呂に入っているときにチョコミントアイスを持ってきてくれたり、数量限定のチョコミントアイスをどっさり買い溜めしてくれたり、
とにかくチョコミント好きな妻に対してのサプライズが凄いのだ。
ハートといえば赤やピンクを連想するが、わたしにとってはもはや彼の愛情がミントグリーンとブラウンカラーに見えてしまうほどにまでなってしまったわけだ。
しかし彼にとってはやや実験のような意図もあるようで、「チョコミントの相対的な価値を知ることができるのか気になる」的なことを話していた。
量の寡多に惑わされず、そのものの価値を見極めることが出来るかということだ。
チョコミントというジャンルは、マイノリティであるから好きだ、というのはもはや理由にはならないのだという。
たしかに、わたしのこともそんな理由で好きになられたら困る。
誰も選ばないから、だなんて、失礼極まりないじゃないか。
このような理由からわたしはチョコミントに対してある程度の敬意を払い、夫が買ってくる新作にうまうま言いながらその味と向き合ってきたわけである。
さきほど口に放り込まれたものは、練りものであることは明らかだ。
しかしそんな経緯があったもので、今回もまたその類だろうと思ってしまったのだ。
「わかった。ねりものだ。…チョコミントの!」
と、自分でも何を言っているのかわからない答えを出してしまった。
夫の表情が半笑いになる。
「えっ、ほんとに?」
この反応は、「やっぱり正解した、このチョコミント狂め!」というものだとばかり思ったが、正解はごくごく普通のチーズちくわだった。
自分の味覚がおそろしくなった。
夫の行動への思い込みや、自分の期待がおのずとチョコミントの味を探しに行っていたのだ。
舌の感覚はすべてチョコミントに集中していた。
夫はしきりに関心しながら、「でもそういえば清涼感すこしあるかも」とか言っていた。
成分表を見たら、ああなるほど、といった感じだった。
ふだんなら絶対感じ得ないコイツを、この異常な環境下で探り当てたわけだ。
視覚は味覚に大いに作用する。
かつてテレビで「格付けクイズ」的な番組を観ていて、A5ランクの和牛とプロの料理人が調理したスーパーの安い肉を見抜けない芸能人に笑ったことがあったが、あれはほんとすみません案件である。
子が一人遊びを覚え、こちらがあやさなくても勝手になにかをするようになった。
夫と談笑していると、そばにあったストールを握りしめ右に左に転がって笑う。
あまりにケラケラ笑うので、おそらく就寝しようとしていたお義母さんが2階から降りてきた。
絵に描いたようなホームドラマの光景だった。
雨が激しく降りだし、雷が鳴った。
春雷ね、美しいわ、なんて気の利いたコメントができればカッコいいのだが、わたしには眉をしかめることしかできない。
雷の音と稲光はとても苦手だ。
ゴロゴロならまだ平気なのだが、急に鳴る乾いたパーンという破裂音がどうにも苦手である。
同じ理由で、運動会のピストルの音は天敵だった。
ドラえもんののび太が、昼寝の邪魔をされないように耳にガムを詰めて音を遮断していたのを真似しようとして母親から怒られたことがある。
結局スタートラインで両耳をふさぐという独自のフォームで、ビリになるということは定番であった。
避雷針を、雷が来ないようにするための便利な道具だと思っていたことがあり、母によく避雷針買ってよと言っていたこともあったなぁ。
カーテンは薄いので稲光をモロに部屋に通す。
我慢ができず布団にもぐって目を閉じた。
夫は平気なようで、四肢を投げ出しすやすやと眠っている。
こういうとき、怖くない人が身近にいると安心するものである。
しかしさすがに、こんな姿は子の前では見せられないなと思った。
【記事を書かせていただいてます】
【日常あれこれ】
優しくツッコんでほしいものですなぁ…。
— chirolpakutiaji (@chirol1660) 2019年3月11日