ヤマモトチヒロのブログ

佐世保在住フリーライターです。育児日記に混じって、地元佐世保の歴史や文化、老舗や人物について取材撮影執筆した記事を掲載しています。

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意識を変えてプルーンと小魚を買う

毎日のように出来ることが増えて、子どもは本当にすごいとおもう。f:id:PKyamamoto:20191221113223j:image

食事はいつも戦いだ。最近はわたしに根性が足らず、ついついパクパク食べさせて終了させてしまうのでこりゃあんまり良くないなという気がする。

また、両親から「食べ物を粗末にしない」という教育をしっかり受けてきた立場としては、子の奔放な食べっぷり(遊びっぷり)に若干モヤッとしてしまう…ここはわたしの母レベルの成長にも繋がる勝負どころである。

とにかく、好き嫌いがほとんどなく全身で食事を楽しんでくれているだけで良しとしよう。

 

アンタッチャブルが10年ぶりに復活して夫が涙したり、気づかぬうちに第二子がお腹に登場していたり、周辺がバタバタしていたり梅宮辰夫さんが亡くなったりと、身の回りの変化がすさまじい年末だった。

妊娠中の影響なのか体調や気分のアップダウンも激しく、天国のあとには必ず地獄がくるみたいなガッタガタな状態が続いている。そんな中でも夫家には助けられてばっかりだ。いやはや。

 

夫が買ってきてくれたマカダミアナッツチョコが美味しすぎて1箱を1時間もしないうちに完食してしまった。

「妊娠中は子どもに養分を与えているので、いくら食べても0kcal説」をひそかに信じて好き放題な食生活をしていたわたしだが、さすがにこれはまずかったようだ。

後日検診を受けた産婦人科で血糖値の高さを指摘され、謎の無敵モードが終わりを迎えることになる。

帰りにドライブがてらスーパーに行き、種なしプルーンと片口鰯の干物を買ってむさぼった。

食生活への意識の変化がもたらしたチョイスだ。これから健康志向になるのだ。人間というのはとても単純なものである。

しかしその夜、久しぶりに外出した勢いでコンビニ揚げ物を買って食べてしまった。

しかもチョイスは揚げチーズドッグとラザニアブリトーだった。

どうやらチーズに飢えていたようだが、あとから考えるとあまりにひどい。

血糖値を考えるなら、野菜なりマロニーちゃんなりを茹でてポン酢で粛々と食べればよかったのに。

やはり抑制しようとすると反動がくるものなのだろうか。

今後の課題は血糖値とイライラを改善することだ、と書くとなんかそういう歳なのかなと少しショボンとなった。

 

味のある標語看板は五右衛門風呂ワールドに通ず【佐世保:古賀住建】

いつも前を通るたびに気になっていたものがある。

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佐世保市天神2丁目。道は狭いが意外と交通量が多い

標語の看板だ。

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看板の下にはババンと会社名が書き記されており、地域の子どもたちや町内会有志がつくったものではないことがわかる。

 

標語は毎月書きかえられるうえ、決まって5・7・5の句だ。

時事ネタや政治へ一言などタイムリーなものからストレス社会を生き抜く人々を労るメッセージまでジャンルも幅広く、わたしは毎回といっていいほど感銘を受けてしまう。

ちょうど道のカーブ付近で見えてくるので、減速ついでにチェックするのが習慣となっている。

 

今回はちょっとじっくり眺めたかったので、少し駐車させていただくことにした。

2019年の今年を締めくくる12月は、

「宝くじ 当たると信じ 夢みるか!」だ。

 

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見る側のメンタル状態によって、「一緒に夢みようか!」とも「本気で夢みるつもりなのか!?」ともなる

正面に立ってみると、なんともいえぬ気迫を感じる。やはり手書き文字のパワーはすごい。

もう少しあたりを観察しようかと、目線を移したその時。

看板の隣ではためくのぼりに思わず目を奪われてしまった。

 

ん?

 

…んんん!?!?

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大好き五右衛門!?

どういうことなのー!!

 

ルパン三世から洋麺屋まで、五右衛門と名のつくものはもれなく好きなわたしだが、これはあまりにインパクトが強すぎるではないか。

わたしは標語看板からサッと身をひるがえし、奥にある「有限会社 古賀住建」の扉をノックしたのである。

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日本の西端で五右衛門風呂を売る会社

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入る前にチラ見、良い

 

―こんにちは!おじゃまします。

笑顔で出迎えてくれたのは、社長の古賀秀之さん(54歳)だ。

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お忙しいところホントすみません!

―あの、五右衛門っていったいどういうことでしょう。

「えっ。ああ、五右衛門風呂ですか」

 

ーわわわ、売ってらっしゃるんですか!?ちょっと詳しくお聞きしたいです。

「はい、いいですよ」

 ―やったー!

 

わたしの頭の中は一気に五右衛門風呂に占拠されてしまった。

大丈夫。標語は逃げないから。

 

思わぬ収穫に舞い上がったわたしの耳に、どこからか鐘の音がグヮングヮンと聴こえてくる…。

今思えばあれは五右衛門風呂の音色だったのかもしれない(妄想だよ)。

 

実物のある場所を教えていただく。

すっかり見落としていたが、大好き五右衛門のぼりの真下にあった。

 

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長州風呂(丸型20)。口径は73センチ深さ62センチ、190リットル入る

 

五右衛門風呂(長州風呂)だ。

ここでは五右衛門風呂と呼ばせていただくが、正式には、薪を焚く下の部分のみが鋳鉄製のものが五右衛門風呂、写真のようにすべて鋳鉄製のものが長州風呂というらしい。長州というぐらいだから山口県にゆえんがあるのか。

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五右衛門風呂。浴槽がほとんど木桶だ

 

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対して長州風呂。全体が鉄釜になっている。煙突もあるしこちらの方がすぐに温まりそうだ

ずっと屋外で展示されていたためか、五右衛門風呂の表面には錆がついている。

これは何のコーティングも施されていない生地タイプというそうだ。

水洗いや油の塗布、乾燥などの防錆処理が必要になるが、使い続けるうちに人の身体から出る脂で皮膜がつくられ酸化防止になるのだとか。はひー。すごい。

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料理が趣味の夫から、「中華鍋を油で育てていく感じかな」とコメントをいただいた。いったいなんだそれは。育つのか。

はじめから防錆仕上げが施されたタイプ(ホーローなど)もあるそうだが、五右衛門風呂本来の入浴感を味わいたい愛好者はこちらをチョイスするとのこと。

五右衛門風呂本来の入浴感とは。

なんでも、肌触りの良い柔らかいお湯で身体の芯までポッカポカなのだそうだ。

 

―実際にお湯に入れたらいいなって、思うんですが。お試しできますか。いくらでも待ちますし実はこの服の下は偶然にも水着です。

「うーん、ぜひともと言いたいんだけど。ここにあるのは見本だけなので、ごめんなさい!」

ーでは、気分だけでも。

「どうぞどうぞ」

 

おそるおそる入ってみる。

大人1人がすっぽりおさまるサイズだ。体格のいいひとならぎっちり。子どもなら2人まではギュッと入るかもしれない。

昔の人は体格も小さかったそうなので、もっと余裕があったのかもしれない。

縁の部分とか底とかすっごく熱そうだが、意外と熱くないらしい。

そうか、この下には本来、底板があるんだもんな。足よ、木の感触を思い出すのだ。

頭の中で必死にあれこれと想像を膨らませてみる。

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しかし身体が温かくなることはなかったし、バランスを崩すと斜面へ転げ落ちてしまうので風呂釜と一蓮托生モードだった

 

時間は日没近く。同行してくれた古賀社長にも寒い思いをさせて申し訳ないので、事務所に戻りお話を伺うことにする。

お茶をいただき、ようやく身体が温まった。ありがたい。

 

それにしても西の端の地佐世保で、どうやって五右衛門風呂を売っているのだろう。

まずはどんな会社なのかを知ることからだ。その成り立ちについてうかがった。 

 

 

昭和3年創立。いまは奥さんと二人三脚で経営

佐世保市の老舗建材店「有限会社 古賀住建」 の流れは、昭和3年から。

「古賀商店」という屋号だったそうだが、醤油屋もやっていたらしい。

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昭和6年当時。「マル」に古賀の「古」の屋号がかわいい((有)古賀住建さまより提供)

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昭和6年当時((有)古賀住建さまより提供)


その後建材店を経て移設、いまに至る。現在は奥さんと二人三脚で経営している小さな会社である。

「子育ての秘訣は夫婦仲だよ」とアドバイスをくれた古賀社長。家族仲は好調のようだ。 

 

現在は電気、ガスや水回りなどの販売施工を行っている同社が五右衛門風呂を商品のラインナップの1つに加えたのはおよそ17年前。

ちょっと珍しいアイテムが欲しかったというシンプルな理由だ。

五右衛門風呂に関しては販売のみで、施工は業者が行っている。

 

 

五右衛門風呂のカタログは昭和感があっていい

取り扱い中のカタログを見せていただいた。

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広島の歴史ある鋳造メーカー「大和重工株式会社」のカタログ。五右衛門風呂を製造する唯一のメーカーだ。昭和感のある表紙がすてき

 

ー意外と種類があるんですね。

「そうだね。直焚タイプからゴム栓付きの給湯タイプ、カンタン組立アウトドアタイプ、形も丸型とか小判型とか、サイズもいろいろだよ。あと、羽釜タイプもある」

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釜めしどんだ。鋳鉄製なので保温耐久性にすぐれている。贅沢な重量感が魅力

 

―ちなみに、どんなお客さんが購入されるんですか?

「旅館や民宿、キャンプ場、一般のご家庭もいらっしゃるよ。屋外でドーンと開放感に浸れるし自分で組み立てもできたりもするから、アウトドアやDIY好きな方が多いかな」

 

また、他に購入理由を伺っていくなかで興味深かったのは

  • 水中出産のため(鋳物の鉄分が溶出するため好影響?)
  • 震災時など、インフラが完全に停止しているなかでも使えるから

だった。

特に水中出産には驚いた。鉄分や遠赤外線といった健康へのプラス要素が期待されるのはわかるが、絵図がほんとに儀式そのものである。血行とかそれはもうギュンギュンで、母子含め風呂釜全体がこう、脈打つ生命なのだきっと。

 

 

 ーどのぐらい売れてるんでしょう?

「そうだね、北は北海道から南は沖縄まで、全盛期で2、30台ぐらいかな」

意外と多くて驚いた。ウン十万の世界なのに!決して安い買い物ではないというのに。

少ないとはいえ全国的にも販売店や通販があるなか、なぜわざわざ佐世保のここを選んだのか。

そのきっかけの1つは、2000年に立ち上げた自社サイトだった。

 

 

売れたきっかけは「サイトを見た」

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30代オーバーにはグッとくるかもしれない、手作り感満載のサイトだ


「当時、五右衛門風呂をネットで売り出そうとしているところはほとんどなかった。だから取り扱い開始と同時になんとかいち早くと、ネットに詳しい後輩を参考に、自力でワードの機能を使ってコツコツと作ったのが最初です」

ーおお、これはかなりの懐かしさ!味わい深いですね。

アクセスカウンター付きである。キリ番、踏み逃げというワードが脳の奥からボコボコと這い出てきたが一旦引っ込んでてもらう。

 

ーコンテンツの数がすごいですね。普通なら会社紹介とサービス内容のみでスッキリ完成しそうなものですが。

「後づけのものも多いんだけどね。こんな片田舎の会社なものだから、たくさん発信することはしなくちゃとおもって。とにかく勉強しまくって充実させたよ。特に五右衛門風呂は、ウチで在庫を見られるわけじゃないからどうすれば魅力が伝わるのかあれこれ工夫したよ」

 

たゆまぬ猛勉強とともに、徐々に成長していく五右衛門風呂コーナー。

f:id:PKyamamoto:20191215121334j:plain商品説明だけにとどまらず施行例、作り方、図面の開示や、

Q&Aコーナーまである。

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お客様質問コーナーかと思いきやまさかのクイズ形式だった

おかげで「とてもわかりやすい」と、遠方のひとからも注目されるようになり、販売へと繋がることもあった。

うんわかる。わたしも見ているだけでワクワクするもの。

「口下手なんだけど、書くのは好きなんだよね。嬉しかったのは、このページのおかげでおたくの人柄がわかった。安心して買えると言われたことだね。努力した甲斐があったよ」とにっこりほほ笑む古賀さん。

数々のコンテンツは、お値段以上の真心がふんだんに散りばめられているのだ。 

 

「そろそろ海外に向けたアピールもしていきたいんだけどね。広い土地があってアウトドア好きなひと多いだろうし」

ーそれは素敵ですね!英語版サイトつくっちゃいましょう。

「それがいかんせん、時間と体力がないんだなー!とほほ!」

 

 

自社サイト内に趣味のページをコッソリつくってしまった 

佐世保出身だが五島にもゆかりのある古賀社長。

若かりし頃は遠洋航海で日本一周を2回達成するなど、海の男の顔も持つ彼はイカ釣りの熱狂的なファンだ。

あふれる気持ちを抑えられず、とうとう趣味のページを自社サイト内にコッソリとつくってしまうという暴挙に出た。

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面白いことに、会社サイトより総アクセス数が5倍近く多い

忙しさの合間を縫って、仲間たちとイカ釣りイベントを開催したりとたいへん充実した釣りライフを満喫しているそう。
そんな社長のすさまじいイカ愛がこもったサイトは、イカさながらに見れば見るほど味が出る。

www5a.biglobe.ne.jp

 

 

歴代NO.1の入り心地を誇る五右衛門風呂は

ー社長はやはり、五右衛門風呂には結構たくさん入られたんですよね。歴代No.1とかありました?

「いやー、それが悲しいことになかなかチャンスがなくって。10年前、販売先のお客様からお誘いいただいて、家族総出で入りに行ったのがもう最高だったよ。薪で火を焚くところから始めて…あれは良い家族のコミュニケーションになるなぁって実感したよ」

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「やー、もうホント最高だったよ」を何回も繰り返す社長。金額や五右衛門風呂の性能以上の入り心地を実感したのだろう

 

―昔は一般家庭でも五右衛門風呂が多く見られたそうですね。

「そうだね。僕が小さい頃、おじさんの家で入ってたりしてたなぁ」

わたしの周囲でも、「農家の祖父母宅で入った記憶がある。とにかく熱くてしょうがなかった!」という声がチラホラ。現在でも、ガンガン高温に焚き上げて入るシニアもいる。

 

―今後は数も減っちゃうんでしょうか。

「売り上げもここ2、3年ですっかり減っちゃったしなぁ。価格競争、増税、不景気によるライフスタイルの変化…思い当たる節はたくさんあるけど、値下げはしないつもりだよ。僕のページなどで興味を持って信頼して注文して下さるお客様もいらっしゃるし、こちらも良いものを売ってるって自負があるから」
柔らかい口調で語りつつも、古賀社長の眼光は鋭い。

 

 

【本題】あの標語について

ーすみません、実はこちらが本題なのですが、会社の表にある標語について聞いてもいいですか。

「あっ、本題そこだったんですね(笑)あれは、会社の場所が分かりにくいとお客さんからの一言がきっかけで設置したんですよ。かれこれ15年くらい続けてるかな」

 

ーちなみにわたしのお気に入りは、「笑おうよ 脳勘違い するくらい」です。あれはどのようなお気持ちで書かれたのですか?

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数年前、夫から送られてきた画像。わたしはこれをきっかけにここの標語を知ることになるが、当時のわたしはネガティブだったので「オイオイ洗脳か!」と返してしまった

「あれは、ちょうど当時読んでいた人間学の本からヒントを得て書いたんだ」

大人になった今ならわかる。人間笑ってみると案外楽になるものだ。

内容はニュースや本、家族との会話からなど。ネタの引き出しは常備されているらしい。サイト内にも看板とは関係なく歌が大量に掲載されている。

ちなみに文字を書いているのは奥さん。なかなかな達筆である。 

標語はご近所さんにも好評で、わざわざ新作を見に来る人も多いという。

 

 

五右衛門風呂も標語も、人をあたためてくれるのだ

人の住まいに関わることは、その人のドラマを知ることでもある。

その価値は、お金だけでは決して計ることはできない。

五右衛門風呂も標語も、それぞれの形で人をあたためているのだと共通点を見つけたとき、小さな住建屋さんが長年この地からもたらしているものの大きさが分かった気がした。

 

それにしても、五右衛門風呂に入れなかった未練がまだ残りまくっている。

そんな気持ちを一句したためる形で成仏させたい。

「子のプール お湯を注げば 五右衛門風呂」

大変おあとがよろしいようで、いやはやである。

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大変お忙しい中、取材にご協力いただきました有限会社古賀住建さま、誠に有難うございました!


 

 

【会社情報】 

有限会社 古賀住建

佐世保市天神2丁目2677-1

0956-32-0776/0120-13-0776 

 

 

 

 

 

【記事を書きました】

★全国の観光情報メディア「SPOT」にて佐世保を発信させていただきます! travel.spot-app.jp

 

デイリーポータルZ「自由ポータルZ」で入選しました。めちゃくちゃ嬉しくて鼻血が出ました。

pkyamamoto.hatenablog.com

 

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デイリーポータルZ「自由ポータルZ」もう一息でした。めちゃくちゃ嬉しいです。佐世保にお立ち寄りの際はぜひ佐世保玉屋へ!

pkyamamoto.hatenablog.com

 

 

佐世保市のローカルメディア「させぼ通信」で書かせていただきました。

sasebo2.com


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 ★好きです、西海楽園フォーエバー。 

pkyamamoto.hatenablog.com

 

 

 

 

図書館には「公式キャラクター」というものがいたりする

2019年、わたしの地元にある佐世保市立図書館で公式キャラクターが誕生した。

 

名を「SABON(さぼん)」という。

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎SASEBO(させぼ)のSAと、図書(ほん)のBONで“さぼん”。港町佐世保らしいカモメのイメージ。胸元には市章、着ているセーラー服の襟は本の形。

本の妖精なので、性別はなぞらしい。

なお、後姿までバッチリ細かくデザインされている。

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リュックサックの柄は図書館のマークだ(図書館総合展ウェブサイトより引用)

こだわりがすごいし、用意周到であっぱれだとおもう。

着ぐるみ化まで待ったなしである。

 

読書と自学だけを行う場所だと思っていた図書館で公式キャラクターとは、とても意外だったわけだが、

あまりの完成度の高さとビジュアルの可愛さに「ンガワイィィィ…ギギギ!」と歯ぎしりしてしまったのは言うまでもない。

 

いやはやしかし、

公式キャラクターの誕生、とは。

児童室やお知らせ掲示板を賑わせたりしている、色紙を切り貼りして作られたウサギやクマと、果たしてどう違うというのか…。

 

などとモワモワしているわたしの耳に、佐世保市立図書館でお世話になっているベテラン司書(とても見目麗しいので、以下GL:グッドルッキングさんとする)さんの一言が入ってきた。

 

GLさん「実は全国の図書館に、チラホラいるんですよ…公式キャラクター」

 

なんだと。

それは、この目で確かめてみなくてはなるまい。

日本における八百万の神々のごとく、地域や企業などを代表するマスコットキャラクターたちが各地にはびこっているわけだが、

図書館もまた例外ではなかったということか。

 

調べていくうち、これまで抱いていた図書館のイメージを覆すかもしれないキャラクターの数々と出会うことができた。

またその過程で、図書館が新しいステージに進んでいるということも知ったのである。

 

まずは数多く存在する図書館キャラクターの、ほんの一部をご紹介したいとおもう。

 

 

個性と愛情とほんの少しの狂気が入り混じる図書館キャラクターたち

図書館といえば本!王道愛されパターン

その名のとおり、図書館=本というイメージに忠実な王道パターンである。

 

【ぶくまる/神奈川県平塚市中央図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎ふくろうの男の子。頭の上にあるのは本の形をした帽子だ。

これだ!本をアクセサリーにしているあたり、メガネをかけている理系男子ほどに安心感がある。

 

 

【らぶちゃん/島根県立大学島根県立大学短期大学部松江キャンパス図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎学生さん考案。広辞苑が3冊乗せられる大きな耳がチャームポイント。「~に」「~だに」などの出雲弁を喋る。

衣装のバリエーション含め、方言を駆使するなどかなり萌える設定だ。

広辞苑公式サイトによると、第七版の普通版で約3.3kgあるという。

ふんわりした見た目に反して、10kg近くの重みに耐えられる屈強な耳をしているのだ。

 

 

【図書五郎/慶応義塾女子高等学校】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎本の妖精。5人兄弟の末っ子で、素直になれない性格のため口がへの字になっている。寿司が好きすぎるあまりこのビジュアルである。

自身はシャリで、本がネタということか。しかしネタ=本なので、鮮度はジャンルによって違うし、美味しかったり不味かったりもするのだろうとおもう。

 

 
【としょくん/常磐大学情報メディアセンター】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎職員さんがメモ紙に10分で書き上げた渾身のキャラ。百科事典に乗り移ったつくも神。

とても貴重な妖怪枠。ゆるいビジュアルとは裏腹に、気の遠くなるような長い時を本棚で過ごしていたであろうベテランの風格を物語っている。

10分程度で彼を描きあげたという職員さんは、きっと強大な妖力に取り憑かれていたに違いない。

 

 

【本挟しお太朗/愛知淑徳中学校・高等学校

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎足の長さは自由に変えられるらしい。

ネーミングで、太郎などの「郎」ではなくあえて朗読などの「朗」がチョイスされるのも図書館キャラクターの特徴だ。

スラッとした細長い脚が魅力的なので、着ぐるみ化の際には中に入るひとの脚の形が重要となる。

 

 

本どころではない、インパクト大な特殊形態

パッと見ただけでは図書館のキャラクターとは思えない、それでいて強烈な印象を残すものを挙げてみた。

 

【語朗(かたろう)/大東市立中央図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎山で友達と相撲三昧の生活だったが、自動車図書館で図書館まで遊びに来て居つく。独特なヘアスタイルは、市花の菊。

まわしのデザインは、「おにぎり、大好きなんだな」というセリフが聞こえてきそう。

相撲よりおもしろいものを、図書館で見つけたらしい。通常の河童と同じく、頭には水がかかせないようだ。

 

 

【ランガナたん☆/田原市図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎1892年8月9日、インドに生まれる。くしゃみをするとおっさんになり、あくびをすると女の子になる。

どんな経緯でこのプロフィールが生まれたのだろうか。

考えれば考えるほど悩ましい。

「わからん、なんとか解脱して楽になりたい…はっ、これがもしやインド哲学!?」などと身体をぐねぐねさせていると、GLさんからランガナタンはインドの図書館学の父ですよ」とのご指摘をいただいた。

ランガナータン(或いはランガナタン, Shiyali Ramamrita Ranganathan, சியலி ராமாமிருத ரங்கநாதன்、1892年8月9日 - 1972年9月27日)は、インド数学者図書館学者タミル人図書館学五原則コロン分類法を制定した事で知られ、インド図書館学の父と呼ばれる。(Wikipediaより引用)

 なるほど、かなりちゃんとした設定を持ったキャラクターなのだった。

「図書館学の五原則は、学生の時に呪文のように唱えてました…」とGLさんがぽつり。

すごいぞ。一体なんなんだ。図書館学の五原則。名前だけでものすごいパワーを感じるぞ。

気になる方はぜひ調べてみてほしい。

わたしもちゃんと勉強して、おのれの根性のなさと無知に打ち震えながら、口がカラカラになるまでわたしも唱えたい。

 

 
【落花生/岡崎市立中央図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎魅惑のくびれを持つ落花生。

とてもクールで潔い。落花生。それ以外の情報は必要ない。

名前の読みが「おちはないく」ということ以外には。

 


【本のヒーロー ダクシオン/HEROES' LABO・シン】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎古来より受け継がれし「閃詩の書」を用いて、本好きの青年エイチマモルが本開(変身)した姿。人類を無知・無関心にしようとする悪の組織「インディグノ帝国」から人々を守るため、日夜戦っている。父親から鎧を受け継いだ時から失われている「左胸の1冊」を探すため、全国の図書館・書店などを巡っている。その1冊が見つかれば、真の力が発動されるらしい…。 

 あまりに素晴らしかったので、公式PR文をそのまま引用してしまった。

ちなみに武装図書剣(図書券がデザインされている)図書ガード(盾)、奥義は読み切りらしい。

受けてみたいぞ読み切り。「続きが気になる!続きを聴かせてェェーーッ!」と悶絶しながら岩場で爆発したい。

ちなみにGLさん曰く、とても良い声をしているらしい。 

 

 
【蛾のおっさん/るみづほ妄想図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎学校図書館の教育格差をよくするべく「蛾(が)んばって」いる。

聞いて驚くなかれ、蛾のおっさんだ。情報はそれだけだ。

蝶ではなくあえて蛾であるところにポリシーを感じるし、それゆえの哀愁もある。

自治体によって起こっている学校図書館の教育格差に一石を投じる、至って真剣なキャラクターである。

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図書館総合展ウェブサイトより引用

筆者の地元・佐世保にゆかりのある方が生みの親らしく、わたしはとても誇りに思う。

蛾のおっさん、プッシュしたい。

 

 

手書きのあたたかみ

キャラクターの多くは手書きのテクスチャーを色濃く残している。

その道のプロにデザインを依頼するのはごく稀で、たいていが館内外での公募(職員さんや一般市民の方の手書き)だ。

予算をあまり割くことができないという事情がうかがえるが、そのおかげかなんだか懐かしさすら内包した親しみが感じられるのは気のせいか。

 

 

猫はやはり人気モチーフ

一見、紙と相性が最悪のように見える猫だが、図書館界においても人気のモチーフだ。

ひょっとして猫好きが多いのだろうか。

スラスラっと描きやすいのかもしれないし、賢そうなイメージも採用される理由のひとつだろう。

 

 

【にゃよい/足立区立やよい図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎やよい図書館に住み着いているノラネコ。本が大好きで、頭にかぶった帽子がトレードマーク。

ひたすらかわいい。なまえもいい。

 

 
【きやにゃ、もりし/笠岡市立図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎同市出身の若手漫画家・青戸成さん(『暗殺教室』(松井優征)の公式スピンオフ作品『殺せんせーQ!』の作画担当)によるデザイン。ネーミングは、同市出身の翻訳家・森田思軒(もりた・しけん)さんと小説家・木山捷平(きやましょうへい)さんから。

漫画家先生のデザインとのことで、思わず「おぉ…」とミーハーな声が漏れてしまった。が、肝心の漫画はまだ読んだことがない。すみません。

 

 

【ねこ館長/江戸川大学総合情報図書館】

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図書館総合展ウェブサイトより引用

▶︎はたきを片手にお掃除や書架の間のゴミ拾い、重い本を抱えての配架など、猫にしては働き者。毎月シーズンにあわせたコスプレで図書館ウェブページのトップを飾っている。

「署長」や「駅長」でもおなじみの猫が、館長としても大活躍。

ファッションリーダーとして、いつも同じ衣装に甘んじることのないストイックな一面も素敵だ。

 

ううむ。

ひょっとして、猫キャラは“招き猫”的な意味合いもあるのかと思ったヤマモトです。

 

 

ところで彼らはなにをしているの?

ところで図書館キャラクターは、いったい何をしているのだろうか。

来館者をなごませるため?こども人気獲得のため?いやいやそれだけではない。

簡単にいえば、「広報係」である。

 

図書館が行なっているサービスについて、案内はされているのに見過ごされてしまいあまり認知されていないパターンは結構ある。

例えばレファレンス

館内所蔵の資料を使って、資料や情報を探すお手伝いをするというものだ。

「紅茶について詳しく書かれている本が読みたい」はもちろん、「小さい頃、海軍の宿舎に住んでいたのだけど、その場所が知りたい」といった『探偵ナイトスクープ!』的なご依頼にまで対応してくれる。

●事例詳細はこちら→子供の頃、海軍の宿舎に住んでいた。場所を知りたい。 | レファレンス協同データベース

 

特に古い情報となるとインターネットに載っていなかったりするため、利用する価値は大いにあるのだ。

内容によって時間がかかることもあるが、知りたい情報に辿り着いた喜びは手探りでお宝を探し当てたかのごとく、である。 

 

そんなわけで、これらのキャラクターたちは、そんなサービスや魅力、新着情報などについて、全力でPRを行う役割を担っているのだ。

「利用者の数が増えることも大切ですが、層の広がりも大切。伝えたい人たちに確実に情報を届けるには、守りや待ちではなく、攻めが必要なんです。そこに、みんなが注目してくれるような“相棒”がいてくれたらいいなと思って、キャラクターを作ることを提案しました」

公式キャラクター誕生は、時代を生き抜く1つの手段。

図書館は攻めの時代に突入したのだ。 

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職人気質な図書館スタッフさんが独自に設計して作成したペーパークラフト。閑静な図書館の水面下ではクレイジーな愛情とエネルギーがマグマのようにほとばしっている(佐世保市立図書館公式キャラクター「SABON」)

 

 「図書館キャラクターグランプリ」というものがある

そんななか、海底火山のような図書館関係者たちのパッションがスパーキングする、年に一回の特大イベントがある。
全国の図書館の普及や交流のため、都市計画や行政、教育、出版関係を巻き込んで行われる図書館総合展だ。

このジャンルでは最大規模のトレードショーとなる。

 

www.libraryfair.jp

 

その中の催しの1つに、「図書館キャラクターグランプリ」がある。※リンク先は2019年度のものです

www.libraryfair.jp

 

ゆるキャラだけじゃなく、図書館キャラだって頑張ってるんだぜ!”と、これらのキャラクターたちにフォーカスを当てたこの催しも今回で5回目を終えた。

今年は総勢75チームのキャラクターが出場。会場での投票によって各賞が決まる(Twiterを通じた各キャラクターへの応援も受け付けている)。※2019年度のイベントは終了しています

 

 

記念てぬぐいもある

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図書館総合展ウェブサイトより引用

こうして一堂に並べてみると圧巻だ。

まさに戦国時代ではないか。

エントリーしたキャラに応じて、毎年図柄は変わるそうだ。

【通信販売】図書館総合展公式グッズのご案内 | 図書館総合展

 

 

このように、図書館には本を読む以外の面白さがあるのだ。

ちなみに近年では、コンサートや演劇、落語など、各館独自の個性的なイベントも打ち出されている。

現在は難しいが、ぜひとも足を運んでみて欲しい。新型コロナウイルスの早い収束を願うばかりだ。

 

 

※記事の作成にご協力いただきました、図書館総合展事務局長さま、佐世保市立図書館の司書さん、誠に有難うございました!

 

白米の魔力

わが家にある米は、ジャスミンライスとバスマティライスの2種類だ。

ジャスミンライスタイ米の最高級品。バスマティライスはインディカ米の高級品のひとつと言われている。

なんだかアジアの富裕層のような家だなぁと思うが、主にこれらを食するのはお義母さんである。

われわれ夫婦は白米を食べない。

糖質制限などというストイックな理由ではないのだが、なんとなく持て余してしまうかもというのと、買い物が面倒だというのと、おかずや麺をガッツリ食べたいからというのが主な理由だ。

ちなみに外出先などではカレーライスも食べるし寿司も食べるし、コンビニおにぎりもためらいもなく食べる。

ただ自宅に白米を置かないだけなのだ。

そんな雑な白米観を持っているにも関わらず、「米は毒です」と言い放つ知り合いの僧(体脂肪率3%)の言葉に適当に相槌を打ったりする。

という具合に、適当に白米と接してきたわれわれだが、ついに導入の時がやってきた。

これまで「夫のお弁当」というタスクから、子育てを理由に逃げに逃げまくっていたわたしだが、先日ついに夫のあまりに貧相な昼飯事情を知ることとなった。

車のゴミ袋に捨てられていた菓子パンの袋について聞いてみると、それはほとんどそういうことだったらしく、さすがにそれは申し訳なかったと猛省してしまったわけだ。

そこで夫にお弁当の持参について勧めたところ、「玄米おにぎり」という返事がかえってきた。

そんなわけでわが家に白米がやってきたのである。

厳密に言えば、子の離乳食用に購入して以来だ。

気合を入れておにぎり弁当初日、1合ぶんほどのおにぎりを持たせた。

具材を買うのを忘れたので、冷蔵庫にあったシーチキンマヨネーズとウインナーにした。

肉肉しいから大丈夫だろうと思った。

ついでに冷蔵庫にあった海苔をジップロックに入れて渡した。

自分でパリパリの海苔を巻け、という意味だったのだが、どうやらおにぎりのリーチに届かず持て余してしまったらしい。

ラーメンの具の海苔状態だ。

次回から海苔を使うときはあらかじめ巻いておこうと思った。

 

帰宅前、夫から電話があったのでスーパーで自分が食べたいおにぎりの具材を買ってくるように頼んだ。

あとから聞いたが、初めて彼は自分で食事を準備せず、なおかつ自分の好きなものを食べることができる感動に打ち震えたという。

買ってきたものは「おとなのふりかけ明太子味」「永谷園お茶漬けのもと」「山椒としらすの生ふりかけ」だった。

彼はとても本気だった。

心からわたしのスマンを届けたい。

しかしつい、炊飯器に残っていた米が食べたくなり、おとなのふりかけを一袋こっそり開封して平らげた。

あとで速攻でばれてしまい、わりと本気で謝った。

 

彼からもう少し量が欲しいとコメントをいただいたので、次の日は5合炊いた。

しかしわたしが寝坊してしまった。

夫は昼ごはん用に2合ぶんほどのおにぎりを自分で準備して仕事へ向かった。

30分ほどアゴを動かし続けたので、途中で疲れてしまったという。

ボリュームか噛み過ぎのおかげなのか、見事にお腹がいっぱいになってしまったようで、その日の晩はわたしが作ったキーマカレー2、3口のみで食事を終えた。

「これは良いダイエットになるかも」と夫婦でワキワキしたが、炭水化物量はやや増えてる気もするしどうなのだろう。

それにしても恐るべし、白米の腹持ちパワー。

白米を生活に取り入れはじめた、われわれ夫婦に乞うご期待だ。

 

 

 

 

【日常あれこれ】

https://www.instagram.com/p/B5SlKCZJUcs/

ピントはこんな感じですかねぇ

 

 



 

 

 

佐世保のローカル線の風景の1つ。駅のなかにあるたこ焼き屋「駅たこ」

寒くなってきた。

たこ焼きが食べたい。

でも、たこ焼きにあまりお金を使いたくないし、わざわざ遠くに買いに行くものでもない、というのがわたしの本音だ。

コンビニのものですら高く感じるし、定食が食べられる値段で売ってあるものなど、いくら具材やボリュームにこだわっていてもいまいち食指が動かない。

しかしお祭りで気分が高まっているときに買って食べるのは、空間代込みでアリだと思っている。

そんな厳しい目線でたこ焼きをいつも見つめているわたしだが、ついつい通ってしまう、大好きなたこ焼き屋さんがある。

 

長崎県佐世保市から平戸市、さらに佐賀県伊万里市や有田町までをむすぶ日本最西端の鉄道松浦鉄道(以下MR)」

57ある駅の1つ、左石駅の構内に店を構えているのが、たこ焼き店「駅たこ」だ。

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佐世保市田原町にある、松浦鉄道西九州線の駅「左石駅」。

 

駅舎の壁には、「駅たこ」の店名が。

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うっすらとした文字の色が時間の経過を感じさせてくれる。

外観からはお店の中が見えないため、営業しているかどうかは赤いのぼりで確認だ。

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店休時、のぼりを確認せずにうっかり訪ねてしまうことがある


 駅舎にはいってすぐ右手に、2坪半ほどの小さなお店がある。

かつては待合室として利用されていたL字型のスペースを改装したのだそうだ。

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店主の森住明さん(55歳)が1人で経営している

 

左石駅は大正9年に開業したとても古い駅だ。

駅舎のあちこちには、3つの時代をまたいだ時の経過が刻み込まれている。

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お向かいには定食屋、隣にはカフェがある

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当時からずっとこの場所にあるみたい

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前はもっと広告とかバシバシで賑やかだったのかなぁ、とか

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かつては日本国有鉄道が運営していたが、昭和63年に松浦鉄道に転換。それまで有人駅だった

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1時間に2~3本の列車がやってくる

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手作り感あふれるマップ。「駅たこ」の表示が「たこ駅」になっていてクスッとくる

 かつては有人駅だったが現在は無人駅ゆえ、職員さんの姿は見えない。

 

 

うちは、たこ焼きオンリーです

驚くべきことに、このお店のメニューはなんと、

たこ焼きのみ。

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店頭にそっと置かれたメニューには、もはや「たこ焼き」の文字すらない

わたしも初めて来店したときは思わず周囲に他のメニューがないかそっと確認したが、なかった。
ドリンクすら、ないのだ。

 

こんな強気で潔いラインナップがあるだろうか。

 

ーメニュー、増やさないんですか。

率直に聞く。

やはり何度見ても、思い切りが良いメニューだなと思うのだ。

「お客さんからの要望は多いんだけどね。設備と人員的に難しいから、今のところはちょっとね」

森住さんの、これまた率直な答えが返ってきた。

 

お店がオープンしたのは平成14年。今から17年前のことだ。

ーたこ焼きだけで、17年!?2〜3年が平均寿命といわれている飲食業界で、17年!

「いやいや、そんなおおげさな。お隣の定食屋さんは30年ほど続いてるから、もっとすごいよ」と、自分のお店のことは脇に置く。

けど、本当にすごいと思うのだが。

 

 

とにかく美味いのだ

森住さんがつくる「駅たこ」のたこ焼きは、べらぼうに美味い。

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さらに6個入り250円、12個入り500円というコスパ最強な価格設定だ。

 

サイズは標準だ。具材はタコ、ネギ、天かすと至ってシンプル。

ガワはつまようじで叩くとポスポスと音がする。今すぐにかぶりつきたいほどカリッとしているし、時間が経ってもなぜか食感や風味が劣らない。不思議なのだ。

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「いや~これこれ。たまんないよね」と森住さん。はい、たまんないです

そして、中はとろけるように柔らかい。

こんなに「外はカリッと中はとろ〜り」を再現した料理があっただろうか。

少なくともわたしは、粉ものというジャンルではお目にかかったことがない。

ダシの優しい味が効いた生地をハフハフ味わっていると、小ぶりながらも存在感のあるタコに当たり、さらに旨味と食感がプラスされる。

鰹節の香りとソース、ネギのアクセントを楽しみつつ、まだ歯応えが残っているタコとともにすべてを飲み込む。うん、喉ごしが最高だ。多幸感に包まれてうっとりしてしまう。

 

…と、これまで食べてきたここのたこ焼きを回想してみた。

あぁ、早く食べたい。

 

 

駅たこ誕生は「みんなでMRを盛り上げよう!」から始まった

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駅たこ誕生のきっかけは、友人からの「一緒にMR沿線を盛り上げない?」というお誘いからだった。

当時、自営業だった森住さんは新たな事業の展開を考えていた。

もともと大好きだったスポーツ系の職種から、波に乗っていたモバイル系の自営業に転身したものの、頭打ちになりやや疲弊気味だったという。

飲食業界はこれまでとは全く畑違いの職種だったが、「みんなで楽しくやれれば」と二つ返事でOKしたという。

この商売で一儲けしてやろう、佐世保で一番になってやる、この道を極めてプロフェッショナルに、料理で人々の心を癒して笑顔に…そんな野心的なものはほぼ皆無だったそうだ。

「楽しくやれれば良いと思った。5年まで頑張ってみて、もしダメならそれまでだねって。今思えば、ホントあっさりしてたなぁ」

その後、友人たちと共同出資しあう形でお店をオープン。

“メニューはたこ焼き一本”という方向性は、最初の段階で決まっていた。

場所とコストや人件費など、とにかくコンパクトにしようと考えた結果行き着いたという。

 

ー経営に関わる方が複数いらっしゃるんですね。

「うん、けど、それぞれの事情でみんな離れていっちゃって」

ーええ!それはなんと…

「結局、僕が買い取る形でお店を続けてるんだよね。けど経営から離れても、みんなお客さんとして来てくれるんだよ(笑)」

ー1人だけで経営していくって、よく決断できましたね。

「もちろん生活がかかっているからね。それに、飲食業の楽しさもわかり始めた良いタイミングだったんだ。せっかくみんなで作ったのに、潰すのはもったいない」

 

ーお店の場所は、はじめから左石駅にターゲットを定めていたんでしょうか。

「いや、他のMRの駅にも良いなぁと思える場所はあったんだけど、他のお店とバッティングしたりしてね。たまたま取れたんで、ここにしたんだ。だってここ、僕の自宅から車で30分以上かかるんだよ。まぁまぁ大変だよ」

大変、なんだろうなとは思うのだが、これまでのいきさつを話す森住さんの様子からはありのままを丁寧に受け止めて日々を過ごす真摯さが感じられる。

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17年間、ほぼ1人で焼き台に立ってきた

ーちなみに、店名の「駅たこ」の名付け親は?

「それは、友人の1人が出した案が採用されたんだ。たくさん候補があったけど、一番シンプルでわかりやすかったからね」

ロゴマークや文字もどなたかが?

「いや、それは業者さんにリクエストしたんだ。たこ焼きのコロンと丸くて可愛いイメージで考えてもらったの。表の文字、かすれてきちゃって古さが目立つでしょ…そろそろどうにかしなきゃな〜と、思ってはいるんだけど」

 

 

たこ焼き一本でやることに期待される「並々ならぬエピソード」

ーやはり、たこ焼き一本だとかなり付加価値がつくというか、レア度が増しますよね。

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各メディアからの取材も多い

 「こんな場所で、しかもたこ焼き一本でやっていると、きっと並々ならぬこだわりやエピソードがあるんだろうということで多くのメディアさんにお声掛けいただけるんだけども、ご期待に添えないことも多くて…ははは」と苦笑い。

以前、某日本放送協会の番組から取材のオファーがあったそうだが、「特に大層なエピソードはないんです!ごめんなさい!」と出演を断ったという。

 

 

この味に行き着くまで

オープン当初からほぼ変わっていないという駅たこの味。一体どのような経緯で行き着いたのだろうか。

ーどちらかで修行を?

「たこ焼きの味は、友人たちで集まって作り上げていったよ。仕事終わりに夜な夜な集まって、ああでもない、こうでもないって。かなり舌が肥えたのが1人いて、彼のアドバイスが理想の味の主軸になってくれた。形が整ったときは、コレコレ!って歓声があがったなぁ」

 

ーたこ焼きを初めてお客さんに食べてもらったときのこと覚えてますか?

「オープン初日は表に出てチラシを配って回ったり、ひたすら焼き台に回ったりでてんてこ舞いだったからね。どんな方に召し上がっていただいたかも覚えていないけど、みんなで試行錯誤して出来上がったたこ焼きが商品として多くのお客さんの手に渡ったのはものすごく気分が高まったよ」

 

気になるたこ焼きの製法だが、生地の配合は企業秘密だ。

まろやかで風味豊かなダシの味が効いている。

はじめは地元企業のものを使用していたが、やがてその会社が倒産。その後、惚れ込んだ味を再現するまでにとても苦戦したという。

 

オープン当初から稼働しているたこ焼き機。

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脂にまみれた汚れはもはや勲章ものだ。

「とにかく外側をカリッとさせたくて。油をね、最初の頃はこの鉄板の半分くらいドバッと入れてたかな。ちょっと有名なお店のやり方を参考にしたんだけど、お客さんから油っぽすぎって言われちゃって、速攻で今の量になったよ」

そう話しながら、森住さんはまたたこ焼きを焼き始める。

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明石産のタコを投入だ。ちなみに、以前に比べ大きさは変えざるを得なくなったらしい。

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「食材の値段が高騰していくなかで、とにかく価格だけは大幅にあげたくなかったし、かといって個数も減らしたくなかった。苦肉の策だよね」

ーうーん、でも、わたしには十分大きく感じますね。タコの切り方に工夫が?

「それは、たまたま大きいのが当たっただけ!ラッキーだね。…あ、ちなみに、天かすは最近エビ入りのものを使ってるよ。ココ、グレードアップしたとこ!」

 

 

ーおおっ!それはもしや、秘伝のソース!?

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最後の仕上げとして投入される“秘伝のソース”?

「ははは、お客さんからもそう聞かれて、『そうそう!』って答えることが多いんだけどね。実は、これは醤油です。九州おなじみの甘いやつ!」

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「秘伝のソース!」と言い放つのが楽しい、そんな少年ゴコロだ


 談笑しながら15分ほどでアツアツのたこ焼きが完成した。

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じーっと出来上がるのを見ながら待つのも楽しい

 

ーちなみに、オススメの食べ方とかってあります?

「うーん、僕自身からは特に提案はないけど。カリカリを維持するためにマヨネーズをかけない人はわりといるかなぁ…あっ!常連で面白いアレンジをする方がいたよ」

なんでも、素焼きで注文(ソーストッピングなし)して、だし汁やお味噌汁に入れて味わうのだという。

ーおお、明石焼きスタイル!たこ焼き本体が美味しくないと出来ない技ですね。

「ある日そのお客さんが、『良いコト教えてあげるわよ、ウフフ』ってな感じで教えてくれたんだよ。僕自身も、そんな食べ方があったのかって勉強になったね」

うわぁ、わたしもチャレンジしてみたい。もうそろそろ食べどきかしら…いやいや、まだまだ聞きたいことがあるんですよ、ガマンガマン。

 

 

17年目にして感じた大きな変化の波

ーズバリ聞きますが、最近の客足はいかがですか。

「いやー、それが今年に入ってガクンと減っちゃって。流れがまったく読めないんだ」

17年目にして初の大ピンチ、は言い過ぎだが、一見、順風満帆に見えたたこ焼き店営業にちょっぴり向い風が吹いているようである。

「やっぱり学生さんのベクトルが変わったかなぁ。スマホやコンビニが普及して、ずいぶん様変わりしたよ」

ーお小遣いの行き先が変わっちゃったのでしょうか。あと、わたしが高校生の頃ですが、学校帰りに買い食いしてると晩ご飯が入らなくなっちゃって、親に怒られましたね。…いや、それは関係ないか。

「それはたまに高校生のお客さんから言われちゃうね。ちなみに前は部活動で遅く帰ってくる学生さんが多かったから20時まで開けてたなぁ。帰りが夜遅いし、ここ無人駅だから真っ暗だしで、なんだか心配だったの。最近はめっきりそんな学生さんも減ってしまったから、営業時間を短縮したけど。少しさびしいね」

 

こうして話している間にも、お客さんがちらほらやってくる。

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平日の夕方時だからか、買い物帰りの主婦や保育園のお迎え帰りの親子、おやつモードのお兄ちゃんなどさまざまだ。

その誰もに、森住さんは気さくに声を掛ける。

「ごめんなさい、これ、作ってからちょっと時間が経ってるんです。少しお安くしときますから。温めるときはレンジで人肌ほどがおすすめですよ」

お客さんが満足そうに帰ったのを見計らって声をかける。

ーわざわざ伝えるんですね。親切ですね。

「焼き立てが一番なんだけど、客入りによっては時間が経ったものをお渡しすることになっちゃうからね。出来るだけベストな状態で召し上がっていただきたいから。うち、保温器は置かないポリシーなんですよ」

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そういえば、それらしきものが見当たらない。

「お客さんには出来るだけ、たこ焼きを自然のままで召し上がっていただきたいから。だから冬なんかは本当に、作るタイミングが難しい」

 

その後、1人、また1人とお客さんがやってきては、小窓からたこ焼きを受け取って帰っていく。

幼稚園帰りだろうか。小さな制服を着た子どもが母親と手をつないでやってきた。常連さんらしい。

「お子さんの反応が一番正直。喜ばれた時なんかはかなり手応えを感じるな。おまけに癒されるし…」

家でおやつとして食べるのだろう、子どもは楽しそうにスキップしながら去っていった。

 

ーやはりこの場所に根付いてるとあって、愛されてますねぇ。

「いや、これだけお店が持ってるのもね、ホントにお客さまのおかげですよ。特に、オープン当初は学生さんたちの口コミが有り難かった。佐世保特有の波はあったけどね」

佐世保特有の波とは、“新しいもの好きだが飽きっぽい”という、地元人の気質を表すものだ。

特に飲食のジャンルにおいてはそれが顕著で、オープン当初は怒涛の荒波のように客が押し寄せるのだが、半年ほどですっかり引いてしまい閑古鳥が鳴く。

佐世保で商売をする際の大きな関門の1つだ。

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なんとかしてたこ焼き業界盛り上げようぜ!という学生の動きもある

「最近は僕と同じように、お客さんの流れが大きく変わったりスタッフの人員が確保できなかったりで苦戦している声を多く聞くね。けど、まだまだ楽しみにしててくださるお客さんも多いから、そして何より僕も生活していくために、頑張らなきゃって思うよ」

淀みのない森住さんの言葉は、とても自然だった。

このたこ焼き店も、ここまでくるべくして緩やかに歩んできたんだなと実感する。

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招き猫たちも応援している

「オープン当初は高校生だった学生さんが、帰省した時に家族連れで来てくれたりしてね、すごく嬉しいし、お店やってて良かったなと思う瞬間ですよ。それと同時に、常連のお客さんでご高齢の方が亡くなった知らせとか聞くととても悲しくて。時間の流れを痛感して、ふとわが身を振り返ったりするよ」

―そういえば、ご家族の方は応援してくれているんですか?

「そうだね、今はもう独立しちゃってるんだけど、離れて暮らす子どもたちがたまに食べに来てくれるよ。そして色々せびってくる(笑)」

ー「パパ、ワタシ、お店の跡を継ぐよ!」ってことにはなりませんか?

「ないね。むしろ、『よくそんなところで1日中焼き続けられるねぇ』って。感心されてるんだか呆れられてるんだか」

 

 

人件費はシビアな問題

経営が1人体制となり、繁忙期などはお手伝い程度にスタッフを雇いつつ何年も仕事をこなしてきた森住さん。

しかし安くて美味しいたこ焼きの提供のため、どうしても人件費に予算が回らなかったという。

なかなか人員を確保できない期間が続き、ワンオペ働き詰め状態だった今年の初め、ぶらりと健康診断気分で受けた人間ドックで即入院を言い渡された。

「気がつかないうちに身体がとんでもないことになってたよ」

なんとか大事には至らなかったものの、1週間ほど店を閉めることになった。

お客さんに心配をかけさせたくないと、店頭には「都合により店休」の貼り紙をした。復帰した際には心配の声も多く寄せられたが、何事もなかったかのように振る舞った。

「そういうの、表には出したくないんです」とはにかむ。

55歳にして、仕事ですっかり埋没していた健康への意識がようやく芽生えたそうだ。

愛煙家だった森住さんだったが、タバコをあっさりと辞めることができたという。

「人間、命の際まで来ちゃったらこんなもんだよね」

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ー乗り越えた人にしか言えないセリフです、それ…。

「健康食品のCMでよく見るでしょ、飲食店を営むナントカさんが大病を患って…っていうの。あれホント大袈裟じゃなくて、飲食業は、水面下がコワイ」

 ふと遠くを見つめながら森住さんが言う。

「この店を畳むときがくるとしたら、いよいよ体が動かなくなった時だね」

 

 

これまで通り、歩みを続ける 

森住さんが長年見てきた、焼き台からの風景。

「ここからの景色も当たり前のものになってきちゃったな」

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森住さんにとって日常の風景の1つ。いったいどれだけの人々が行き来してきたのだろう

ーこれからはどんなお店作りをしていきたいですか?

「そんな特別なことはしないつもりだよ。これまで通り。できれば70歳までは現役で続けたいけどね」

ーえーっと、ご主人は今55歳だから、あと15年か…。いやいや、できればわたしの子どもが大きくなったら何度でも連れていきたいので、もうあと30年はよろしく頼みますよー!

「85歳か!厳しいな!さすがに倒れる!」

駅たこはこれまで通り、たこ焼き一本で。駅を行き交う人々を眺めながら、変わらぬ時を刻んでいく。

ーよしっ、では、6個入りを2パックください!ウスターソースとしょうゆ、マヨネーズ付きで!

「はい、ありがとう」

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「カメラがあると緊張する」とおっしゃっていたが、本当に笑顔が素敵だ


 

森住さんにお礼を伝え、たこ焼きの袋をぶらさげたまま駅のホームへ行く。

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列車に乗るためではなく、たこ焼きを最高のロケーションで食べるためだ。

焼きたてでホカホカの、たこ焼きが入ったパックをさっそく開封する。

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冷えた手をじんわり温めてくれる…

ソースの香りがぶわっと押し寄せてきた。ついでに列車もやってきた。

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列車を眺めながらいただきます


ーふわ、熱い。美味い、あつい。はは。やっぱうまいなぁ。

自分用の1パックをあっさりと胃に収め、家族のために買っていたもう1パックもペロリと平らげてしまった。心の中でゴメンと謝っておく。

 

わたしは、身の丈にあった着心地の良い、それも上質な服を着ているかのような、バランスの良いこの味が大好きだ。

カリッとまあるい出来立てのたこ焼きは、ご主人の人柄のように温かく素朴で、沿線の風景とともに穏やかに流れる時間を与えてくれるのだった。

 

 

 

 

 

※お忙しい中取材にご協力いただきました、「駅たこ」店主森住さま、誠に有難うございました。

 

 

【店舗情報】

駅たこ

佐世保市田原町8-1

10:30~当日準備材料終了時(要問合)

0956-40-8539

 

 

 

 

【記事を書きました】

★全国の観光情報メディア「SPOT」にて佐世保を発信させていただきます!

佐世保バーガーの地元民おすすめと、その近くの観光名所まとめ! | SPOTtravel.spot-app.jp

 

デイリーポータルZ「自由ポータルZ」で入選しました。めちゃくちゃ嬉しいです。

明治から昭和初期を生きた「三角コレクター」徳田真寿について書く - ヤマモトチヒロのブログpkyamamoto.hatenablog.com

 

デイリーポータルZ「自由ポータルZ」もう一息でした。めちゃくちゃ嬉しいです。佐世保にお立ち寄りの際はぜひ佐世保玉屋へ!

親子三代で佐世保玉屋へ - ヤマモトチヒロのブログpkyamamoto.hatenablog.com

 

 

佐世保市のローカルメディア「させぼ通信」で書かせていただきました。

あの赤いゾウさんのスーパー、エレナの「アノ歌」のひみつを探ってみた | させぼ通信sasebo2.com

 

三ヶ町の路地裏にある『立ち呑み処&猫雑貨屋 旅と猫と』に、猫好き女子でまったりしてきたよ【毎月22日はニャンニャンデー】 | させぼ通信sasebo2.com

 

 

★好きです、西海楽園フォーエバー。 

pkyamamoto.hatenablog.com

 

 

 

いつのまにか世界がいっぱい救われていた

子が1歳になるまでのあいだに、世界が何度危機に陥り、そして救われたのかわからない。

観まくったアニメの話である。

決して子育てをサボっていたわけではない。

子の気を引かせたいときや疲れて何もしたくないときなど、NetflixやらAmazonプライムやらがとにかく大活躍してくれるのだ。

とはいえ、子の好みなんてまだ何もわからないため、片っ端から観せて反応を観察していく。

おかあさんといっしょアンパンマンドラえもん、ルルロロ、リサとガスパールピーターラビットシルバニアファミリー、ペネロペ、おさるのジョージゲゲゲの鬼太郎プリキュアセーラームーンといったラインナップだったが、

この中でちゃんと腰を据えて観てくれていたのはおさるのジョージピーターラビットゲゲゲの鬼太郎だ。

おさるのジョージは甘くてキャピキャピした雰囲気ではないし、

ピーターラビットは常にアナグマやらキツネやらフクロウから命を狙われ続けている。ピーターのパパはパイにされているし、ウサギたちは自分が食物連鎖のどの位置にいるかをちゃんと把握している。

ゲゲゲの鬼太郎は新しいやつだが、毎話のように時事ネタが入ったり西洋妖怪がアジア妖怪をコテンパンにしたりとシビアなシーンも多い。

甘くなくスパイシーなお話が好みなのだろうか。

そしてこれらに加え、わたし好みのアニメも観るのだが、下手をすると子ども向けアニメより真剣にハマってくれている作品がある。

笑ゥせぇるすまんだ。それも89-92デジタルリマスター版のほうだ。

あまりに静かに観ていてくれるので、はじめは怖がっているのかと思ったがそうでもないらしい。

とうとう先日、視聴話数が70を突破。喪黒さんの名刺のフレーズが「ココロのスキマ♡お埋めします」になったり、セル画の動きがヌルヌルしたりしている。

子は、とうとう「私の名前は喪黒福造…」のオープニングで身体を左右に揺らすようになった。喪黒さんの歩き方を真似しているのか…。

 

勝手ながら、ここで70話までの私的まとめをお伝えしたい。

・ほとんどの話がお役立ち商品のおすすめ→お客が喪黒さんの忠告や約束をきかずに規約違反→「ドーン!」で制裁されるというパターン

・制裁のレベルはちょっと痛い目に遭うものから死亡まで振り幅が凄まじい

・喪黒さんの営業はわりと強引。はじめから相手を陥れようとすることもある。

・喪黒さんは女性に優しい。女子高生の万引きも「思春期の気の迷い」とかばう

・制裁で使われる「ドーン!」は、野犬を追い払ったりチンピラをのしたり攻撃としても使える。ワニに意思を与えてでっかくすることもできる。

・「ドーン!」は電話越し、PC画面越し、ゴルフボール越しからでも使える

・動物系の名前と見た目のお客はたいていラストで人間やめる

 

こんな感じだ。

子が一体このアニメのどんなところに魅力を感じているのかは不明だが、ブラックユーモアを理解するにはまだまだ先のことだろう。

「怖い」という感覚が芽生えるのも、おそらくもう少し先かもしれない。

まだまだ色んな作品に触れて色んな感情を育んでほしいぞ!と思いつつ、子が大人しくなることに甘えてつい笑ゥせぇるすまんを再生してしまうのだった。

 

先日、市のイベント「させぼ文化マンス」にお邪魔してきた。

年々グレードアップする闇鍋クオリティ…企画運営の質の良さが実感できた。

公共ホールの敷地内にテントサウナと水風呂が登場したのにはホント面白さの極みだと思うし、

テクノロジーを使った遊び心的な展示やトークイベントはもっと若い人に見てほしいと感じた。

東京から来た劇団の公演は大きな刺激になった。

東浜女相撲公演も好評だったそうだ。もちろん佐世保の伝統的な風習や催しなども、色んな形で伝え継いでいくべきだ。

来年もまた楽しみでならない。

 

この頃、子が夫婦のベッドに入り込んでくるようになってとてもせまい。

おまけに猫も乱入してきて大変混み合っている。

幸せなのだが結構寝るのが大変だ。

翌朝がとてもねむい。

 

 

 

 

佐世保が誇る「西沢本店」の手芸フロアを自慢させてほしい

手芸が苦手だ。

編み物をすればまっすぐ編めずに海ぶどうのようなものができるし、

縫い物をすれば縫い糸はあさっての方向へゆく。まともに布同士を繋ぎ止めることができない。

友人のためにマスコットを作ったときは、詰めたはずの綿が逃げ場を求めてわやわやと縫い糸の隙間から飛び出していた。友人に渡す前に、そっと元ある形へと戻した。

当然、学生の頃は家庭科の授業がいやでいやでしょうがなかった。しかしチャコペンとオバアチャン(針の穴に糸通すの手伝ってくれるやつ)への愛着だけはあったと自信を持って言える。

とにかく針と糸を持ちたくなくて、深夜の通販番組でアメリカ人が宣伝していた「塗るだけで綺麗に布が接着!洗濯してもゼッタイ落ちない裁縫クリーム」を本気で購入しようと考えたこともあった。

 

そんな、手芸が苦手で無知なわたしですら、ここはすごいと思う場所がある。

 

佐世保市四ヶ町商店街内に店舗を構えている「西沢本店」の手芸フロアだ。

 

すごいと思う根拠は、

  • 1フロアすべてが手芸と服地売場になっている
  • 日本最西端の佐世保の地にあること

が挙げられる。

 

ちなみにこのフロアは西沢本店の4Fで、他の階はアパレルや雑貨などのショップが入っている。

品揃えに関しては、手芸のジャンルによって評価が分かれるため「なんでも揃っているんだぞ、へへん!」と言い切ることはできない。

 

まずは見てほしい

 

この広さ。

 

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見渡す限り、布、布、布だ。布ダムが決壊している。

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お見せしたのはほんの一部だが、柄の情報量が多くて頭がくらくらしてくる。



今回売場を案内していただいたのは、スタッフ歴10年超の針尾さんだ。

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針尾さん曰く、右手に見えますのが初心者向けだそうだ

針尾さんによると、ざっくりこの通路を境に初心者向けと玄人向けに分かれるのだという。

やや語弊があるが、前者がコットンやパッチワーク系生地、後者は洋装服地(化合織、毛織物、シルクなど)という感じで、扱いやすさのレベルが違うということだ。

 

店内の品揃えは約5万点におよぶ。

長崎市や福岡にも支店があるが、九州髄一の規模だそうだ。

 

西沢本店の創業は1830年(文政13年)。滋賀近江國で呉服、綿麻物、陶器などの商いを始めたことが始まりだ。

明治にここ佐世保に店を構え、ファッション事業、服地・手芸・オーダーカーテン、呉服事業を展開。 

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日本一長いアーケード・四ヶ町商店街のなかからも入れます

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以来100年あまりにわたって、布・布・布にこだわり続けた。

かつて、手芸フロアは1階に売場があり、広さも品揃えも倍以上だったそうだ。

服をファストファッションやネットで購入することがメインとなるまえ、洋裁学校が隆盛を極めていた時代。

西沢本店をはじめ、さまざまなブティックや呉服店が軒を連ねていた。 

もれなく洋裁スキルを身に付けていた当時の女性たちは、世界に1つだけの1点ものを創るべくあちこちを駆けまわったのである。

 

意外とある、舞台衣装の需要

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わたしのポージングのリクエストが甘く、針尾さんがレギュラーの西川君になってしまった


フロアの最奥にありながらも異彩を放っているのは、舞台衣装コーナーだ。

佐世保でこんなに必要なのか!?と思うが、意外にも需要は多い。

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おひめさまのドレスのようなものからチャイナドレスに使える布まである

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保育園や幼稚園の先生たち必携の一冊だ


ピアノ発表会やダンス教室、あと幼稚園のおゆうぎ会などのステージ衣装に人気なのだそうだ。

わたしは以前公共ホールの受付窓口で働いていたことがあり、佐世保は意外にも教室やサークルがあることを知った。

毎年きちんと定例発表会が行われ、舞台衣装に身を包んだきらびやかな参加者たちで会場は賑わっていたが、そこと結びついていたとは。

Amaz◯nなど安価で手軽に手に入るこのご時世でも、丁寧な手作りにこだわる人がまだ居るということなのか。

「お母さま方…というより、おばあちゃまが気合を入れてお孫さんに作られるケースが多いですね」

なるほど、佐世保らしい。

西沢本店の客層は、服からドアノブカバーや電話カバーまで、身の回りのものはだいたい自分で作ってきたという手芸スキルを持つご年配の方々がメインだそうだ。 

自身の熟練した技を愛しい孫に捧げたいということらしい。

よくわたしに洋服や小物を作ってくれていた母や祖母のことを思い、少し感慨深くなった。

が、おや、わたしにはそのスキルがないぞ。

どうする…。

 

さて話は戻るが、舞台衣装コーナーの需要で特に佐世保らしいジャンルが、年に1回のビッグイベントとして君臨しているYOSAKOIさせぼ祭りのチーム衣装だ。

YOSAKOIさせぼ祭り』とは

20年続く佐世保の秋の一大イベント。全国からよさこい踊り手やファンがドカッと集まり、鳴子をならし大きい旗を振って「ハッ!」とか「ハーッ!」とか叫んで舞って涙したりする、大変ドラマチックな催しである。

 

衣装は演舞のクオリティやチーム色を出すのに重要な要素の1つだ。 

当然、既製品では物足りないと、徹底的に手作りにこだわるチームも多い。

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さわりごたえがあるぞ

  

ここは一見お会計レジのように見えるが、布のカットコーナーだ。

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よくレジと間違われます

なんと、ここでは10cm単位でのカットが可能なのだ。

他の手芸店などでは50㎝単位を採用するところが多いそうで、これはなかなか珍しいことのようだ。

かつてインテリア売場で布をカットする仕事をしていたわたしは、新人の頃お客のオーダーの+50㎝ほど長めにカットして「あとはそちらにおまかせします」作戦を取っていた。のちのちバレてお局からこっぴどく怒られた。

なので10㎝単位カットなんて尊敬の二文字だ。正確に布を裁つためには、相当熟練した技が必要だろう。

 

ちなみに、カットコーナーの近くにはカーテンの巻売りもある。

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ここで服用の布を調達するチャレンジャーもいるという

腰窓でも90㎝、掃き出し窓サイズだとハサミを入れる部分の長さが180cmからとなるため、かなりハードだ。

おまけに防炎やら遮光機能やら、分厚いカーテンのカットなど想像するだけでも心のハサミの切れ味が鈍ってしまう。いや、心にハサミはあんまりないほうがいいけど。 

 

ふと、年季の入った道具たちに目が行った。かなり使い込んでいるようだ。

「備品で最近増やしたものといえば、作業台1つぐらいですね。しかも色がついてるやつ。これまでのは台の色が真っ白だったので、レース素材とか、白い布が見えづらくって」

白い台で白いレースをカットする・・・。「はだかの王様」に登場する仕立て屋のような気分だろうか。

 

年季の入った道具たちは、長年スタッフさんを支えてきたのだ。

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年季の入った道具たち。亡き祖母を思い出してグッときた

ちなみに右側にあるのは、カットする布用のおもりである。

「売場をウロウロしつつも、結構ここで作業しますね。小学校の体操服用のゼッケンや、運動会用のハチマキもここで製作しているんですよ」

なんと、わたしたちがかつて頭に巻いていたハチマキは、こんな身近な場所で作られていたのだ。

使い終わった後きれいに洗濯をし、アイロンをかけて学校に返却した思い出…。

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陰ながら応援してくれていたのね

 

余談だが、こちらのカウンターではスタッフ手作りのレシピがゲットできる(コピー代が必要、一部有料)。

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空いた時間にせっせと手書きでつくっているそうだ

インターネットでも調べられるのかもしれないが、こうして手渡しでもらうのも温かみがあって良いしコピーの手間も省ける。

洋服に限らず、バッグやエプロン、子どもアイテムなどさまざまなレシピが揃っているので、活用してみてもいいかもしれない。

 

 

わたしが服地コーナーの次に自慢したいのが、ボタンコーナーだ。

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なんかもう標本みたいです

ボタンが入った箱がズラリと壁一面に並ぶさまは圧巻である。

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箱入りってのが良いんです


持参した服とあわせながらボタンを探すお客さんも多いため、売場には鏡とテーブルが設置してある。

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テーブルは、手芸教室などで使用することも多いそうだ。

それにしても、ボタン冥利に尽きる売場環境ではないか。わたしがボタンならここで輝いて一生を終えたい。

 

使い道がわからないレトロな仕様のものもあるが、アクセサリー用でたまに売れるらしい。  

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ちなみに一番高いボタンは、1220円のものだ。

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以前は2000~3000円クラスのものもあったそうだが、時代とともに売場から消えて行ってしまったという。

小学生くらいの頃、ビジューだったかカメオだったかとても綺麗で高いボタンをなけなしの小遣いで買ってお守り代わりにし、あっさり失くして泣きべそをかいたのが懐かしい。 

 

 

ここは毛糸コーナーだ。

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以前はもっとスペースが広かったというが、十分広く感じる

什器1つぶんとかではなく、毛糸専用に1つの空間が設えてある。

以前はベテランの専門スタッフがいたそうだが退職してしまったそうだ。

毛糸専門…勝手だがこんな女性を想像してしまった。

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「あら、いらっしゃい」と気さくに声を掛けてくれる。いつも揺れるイスに座っているし基本立ち上がらない

専門家が抜けた穴は大きい。

若手スタッフはなんとか顧客の要望に対応すべく、編み物の勉強にも励んでいるという。

こうした、古株のスタッフが抜けていくというのも今後の課題の1つだそうだ。

ちなみに手芸フロアのスタッフは女性がほとんどを占めているそうで、男手が足りず力作業が厳しいため、手がつけられない部分もあったりする。

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取り扱いがなくなったものの動かせない縫い糸の什器。個人的にはかわいいのでこのままでもいい

 

 

売場のさらに奥へ行くと、なんだかものものしい雰囲気に。

明らかに素人では取り扱えるレベルではない布たちが「なにしに来たのよアンタ」と言わんばかりにこちらを見ている。

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わたしでもわかる。シルクだし1つ1つが手染めのスゴイやつだ。

「これは・・・!」コナン君ばりにひらめいてみたが、品名が出てこなかった。

「インド更紗、ジャワ更紗ですね」

針尾さんが丁寧に教えてくれた。

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ほんなこてすごかですばい(本当にすごいですねの意)

思わず値札に目を見やる。

「ヒィッ!思っていたよりゼロが1個多いッ!」

 

ここはおあつらえの世界へのゲートだった。

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いったいどんな人が買いに来るのだろう※こちらの催しは終了しています


 

西日本ではここだけ。手芸用品フロアにあるオーダーコーナー

 

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おあつらえ、オーダーメイド。

手芸フロアにある婦人服オーダーコーナーは、西日本ではここだけだそうだ。

東京や各地からわざわざメーカーが訪れて「ウチの布を売ってくれ」とお頼み申すレベルで貴重とのこと。

 

「CHANNEL」「GUCCI」「DORCHE & GABBANA」「GIORGIO ARMANIなどなど、世界の名だたる超高級ブランドの布地が並ぶ。

熟練したバイヤーが東京・大阪などから買い付けた100点を超える特選生地だ。

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ドルチェ&ガッバーナ

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グッチやヴァレンティノ、アルマーニなど

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えーと、えーと、すごい!

どのコーナーも眩しすぎてすごい。

セレブ達を一カ所に集めたパーティーにこっそりお邪魔している気分だ。

しかも油断した場所にカシミヤがそっと畳んであったりして「あっ!そちらにもいらっしゃったんですね!すみませんすみません」と、うっかりチラ見で済ませてしまった自分を責めたくなる。

 

服地だけでも、2ピース1着分で10万超えは余裕だ。もちろん作るアイテムによるが、完成時にはオーダーメイド料金で倍以上の金額になる。

しかしそんなことは、クライアントにとってはどうでもいいことなのだ。

パーティードレス、冠婚葬祭から普段着まで、とことん時間をかけてこだわりぬいた最高の一着を手に入れることにこそ意味があるのだから。

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皇室のあの方も色違いをお召しになっていたというレモラファブリックの布まで。シルクのふくれ織りで、まるで羽衣のように軽い(持ったことはないけども)

 

オーダーメイドの流れは、ざっくり言うとこうだ。

  1. 生地・デザイン選び
  2. 仮縫い(フィッティング)
  3. 本縫い
  4. 完成

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ここでじっくりとクライアントの要望をヒアリングする

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世界中の御洒落マダムたちを撮り続けるアリ・セス・コーエン氏の写真集も常駐



生地選びから出来上がりまでを担当しているのは、服飾デザイナー歴35年の中嶋さんだ。

スタッフの皆さんからは親しみと尊敬を込めて“中嶋先生”と呼ばれている。

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クライアントのリクエストに限りなく近づけるようデザインを起こしていくことも中嶋さんのお仕事だ。

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仮縫いの段階。ここからまたサイズやデザインの確認が入る


奥にある作業スペースも見せていただいた。

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服のパーツに応じた柄あわせや、正確な裁断スキルが要求される。このあたりはチームでの作業になる

1つの洋服をつくるのに約1か月半から2ヶ月。その間、5名のプロフェッショナル達がその手腕を惜しみなく発揮しているそうだ。

数㎜単位の正確さが求められるのは、いったいどれほどのプレッシャーなのだろう。

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毎朝みんなで読み上げる。気合入れるのも大切だもの。

最高の1着に到達するまでには、スタッフやクライアントが顔を突き合わせてああでもないこうでもないと何度も何度も試行錯誤を繰り返す。

オーダー服には、糸や布といった材料に加え、クライアントの愛情とこだわりがもりもりと込められているのだ。

この、完成に至るまでの過程が楽しくて、そして最高の着心地にオーダーメイドの沼にハマってしまうひともいるようだ。

頭の先まで沼に浸かってしまうと、既製品は着られなくなってしまうらしい。

 

いったいそんなクライアントさんってどんな人たちなの?

中嶋さんがこれまで担当してきたひとのなかには、「おあつらえしたお洋服(50万強)を着てカラオケに行くのが楽しいの」という女性がいたそうだ。

または、旦那さんが長年連れ添った奥さんへドーンとプレゼント、などなど。

うらやましいというより、とても素敵なことである。人生を盛大に謳歌している、すがすがしいお金の使い道だ。

 

佐世保だけでなく福岡や 中国地方あたりからわざわざ来店するクライアントもいるとのことで、わが街自慢がとても意外なところにあった。とても誇らしい。

しかし現在のところ、この中嶋先生が引退されるとのちの担い手が居ない状態だという。

そういうわけで、中嶋先生の元で修業したいという次世代の服飾デザイナーを随時募集中だ。

佐世保のためにも熟練した腕をお持ちの方、宜しくお願いします。

 

 さて、オーダーコーナーから一歩出れば、さきほどぐるりと案内してもらった、ものづくりを応援するひとたちが働くステージだ。

「この仕事のやりがいは?」と、針尾さんに尋ねてみた。

「お客様のお役に立てるよう励みながら、わたしも多くを学ばせてもらってます。そこで磨いた技や知識をお客様に還元して喜ばれるのが楽しいですね」とにこりと笑う。

接客や勉強を通じて新しい刺激やアイディアが生まれ、それが作品に反映されることもやりがいなのだろう。

ものづくりに終わりはない。研究と実験の日々だ。

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北欧テイストの布コーナーを飾るニョロニョロに技術が還元されることもある


「刺繍糸ひとつで作品の印象もガラッと変わるんですから、あなどれないんですホント」

 

まるでアートの世界だともおもう。

とどまることのないものづくりへの情熱が、西の果てで静かにホワホワ渦巻いている。

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いくつになっても、「ヒラメイて・キラメイて・トキメキたい」のだ

 

ちなみに彼女のお気に入りの布は、こちらのアンパン柄だ。

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てっきりアンパンマンのことだと思っていたが、ほんとうにアンパン柄だった

 

 

 

さいごに、佐世保の淑女たちに人気のアイテムを一部ご紹介したい。

 

【繭玉】

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発泡スチロール製の玉に、さまざまなちりめん布を貼り合わせて作るもの。糸を通してぶらさげたり、置物として飾ったり。佐世保市江迎町の街を彩る春の風物詩ともなっている。

 

【キューピーの衣装】

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もはや孫の服をつくる感覚だ


ほんとうにさまざまなバリエーションがある。街中でおばあちゃんと親しくなると、おもむろに渡されることがある。

 

ほかにも、5円玉をベースにカラフルな糸をぐるぐると巻き付け成形した「5円玉マスコット」や、ビーズで作られた中型のプードルなどがある。これらもまた街中で(以下略)。

 

 

ものづくりはやっぱり楽しい

わたしは活字の世界であるが、作品を創るということはやはり楽しい。

しかもそれが形を残し、人の手に渡り、喜ばれるものであればなおさらだ。

自慢ではないがわたしの母はこの道40年以上のドール作家、同居しているお義母さんもまた40年以上服や小物などを極めに極めている。

2人ともまったくテイストが違うので、とても面白い。

 

【母】

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ⓒ1996-2019 moko-doll

【お義母さん】

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ⓒ十七番倉庫 by natsuerogers

 

創作は自分の分身をつくることにも似ているなと思う。

 

そんな2人に囲まれていながら、わたしには数ミクロンも彼女たちの持つ技術が受け継がれていないことが悲しいところなのだが、

とりあえず自分にできることを地道にやろうと思う。

しかし、子どもが色々と認識できる前には、雑巾の1つでも縫えるようになっておきたいものである。

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お義母さんがネットで購入したニコラスケイジのクッションカバー

 


 

 

 ※取材にご協力くださった西沢本店手芸フロアのみなさま、誠に有難うございました。

 

 

 

【記事を書きました】

★全国の観光情報メディア「SPOT」にて佐世保を発信させていただきます!

佐世保バーガーの地元民おすすめと、その近くの観光名所まとめ! | SPOTtravel.spot-app.jp

 

デイリーポータルZ「自由ポータルZ」で入選しました。めちゃくちゃ嬉しいです。

明治から昭和初期を生きた「三角コレクター」徳田真寿について書く - ヤマモトチヒロのブログpkyamamoto.hatenablog.com

 

デイリーポータルZ「自由ポータルZ」もう一息でした。めちゃくちゃ嬉しいです。佐世保にお立ち寄りの際はぜひ佐世保玉屋へ!

親子三代で佐世保玉屋へ - ヤマモトチヒロのブログpkyamamoto.hatenablog.com

 

 

佐世保市のローカルメディア「させぼ通信」で書かせていただきました。

あの赤いゾウさんのスーパー、エレナの「アノ歌」のひみつを探ってみた | させぼ通信sasebo2.com

 

三ヶ町の路地裏にある『立ち呑み処&猫雑貨屋 旅と猫と』に、猫好き女子でまったりしてきたよ【毎月22日はニャンニャンデー】 | させぼ通信sasebo2.com

 

 

★好きです、西海楽園フォーエバー。 

pkyamamoto.hatenablog.com